
- 902 名前:番外編・夜の追憶(1) 投稿日:04/05/02 20:58 l6lKKjLR
- その頃の榊はいつも懊悩を秘めているようで、瞳はどこか曇ったままで。いつでも寄り
添っていたいという想いも、どことなく薄い壁に阻まれているかのようで、神楽はたびた
び、出会った頃の榊を思い出させられることがあった。
理由は判りきっていた。獣医課程も3年目に入れば、綺麗事ばかりではない側面は否が
応にも現実性を帯びてくる。実際に、覚悟の伴わなかった学生たちが脱落を始める時期で
もあった。
榊はそう感情的に悲しみを見せていたわけではない。学習内容そのものにはそれなりに
適応してみせたようだ。むしろ彼女の苦しみはいつものように理性的で、もっぱら自分自
身への厳しい問いかけという形のようだった。
神楽には、投げかける言葉も思い当たらなかった。同じ道を歩んでいない身からは、重
みのある言葉が出ようもなかったし、適当なことを言ってよしとするほど神楽は無神経で
もなかった。
それでも、恋人としてできるせめてものことはしたくて。
きょう一日を当ててのドライブを計画したのも、そんな願いゆえのことだ。郊外へ車を
走らせれば、初夏の緑は期待どおりの鮮やかさを見せてくれたし、二人でその中を並んで
歩き、食事や買い物に興じた半日は、久しぶりの潤いを与えてくれたと思う。免許のない
身では榊に運転させる本末転倒ではあったが、それを精一杯補おうと、気持ちだけは尽く
したつもりだ。新鮮な気持ちを作るため、珍しくミニスカートさえ穿いてみせた。太い足
が、本当はとても気になるのに。でも、その恥ずかしさまで込みで、榊はちゃんと愛でて
くれた。
けれども、日も暮れて帰途につく今、神楽は決して晴れやかな気分にはなりきれていな
かった。結局、榊はまだ心からの笑顔を見せてくれていない。そんな思いがしてならなか
ったのだ。
- 903 名前:番外編・夜の追憶(2) 投稿日:04/05/02 21:00 l6lKKjLR
- 雑誌を読むためという名目でライトをつけてはいたが、神楽の本当の目的は、隣に座る
榊の様子を窺うことだった。
その容貌は、ますます成熟を重ねて美しくなってきたと思う。何しろ、高校で知り合っ
たときからもう4年以上になるのだ。その半分を友人として、あとの半分を恋人として過
ごした。そしてライバルとしては、ずっと。神楽自身はそのつもりだ。友人の頃は、スポ
ーツの面で。今では――全ての面で、かもしれない。一緒に人生を送ることに釣り合える
ような人間でありたいと、神楽は願っている。例えばこの美貌だって、ただ愛でるだけで
はない。自分もこの人に負けず綺麗でいよう、そんなふうに思うのだ。
けれども今、降り始めている宵闇を背景に、黙ってハンドルを握る榊の横顔には、これ
といった表情は読み取れなかった。
神楽は声をかけてみる。「なあ。まとまった休みがとれたらさ、今度は旅行に行こうよ。
二人でゆっくり温泉にでも入って」
「そうだね……」
榊の返事は、そっけないわけではないが、それほど楽しげでもない。だから会話も続か
ない。
落ち着きの悪い空気を紛らわしたくて、神楽は席の脇に置いている猫のぬいぐるみを手
に取った。「ねっころび」ブランドの新作で、ねここねこのイメージを引き継いだ可愛い寝
姿。今日の買い物で、榊へのプレゼントという形で買ったものだ。そのふかふかした手触
りをしばらく楽しんだ後、おもむろに榊の脇腹へ向けて突き出した。子供じみたじゃれつ
きと知りながらも。
「がーっ! 久しぶりに噛みついてやる」ふざけて口にすると、まだ友人だったあの頃が、
ふと懐かしく思い出された。
榊は静かに笑い返した。だがそれだけで、あまり乗り気な反応ではない。
神楽はぬいぐるみを元通りに置くと、諦めてシートにもたれた。そして、少し気になっ
ていた思いを口にする。
「……何か最近さ、ぬいぐるみとかにもあんまり興味なくなってない?」
そうなのだ。今も部屋に幾つか飾っているとはいえ、確かに昔ほどではない。マヤーの
存在で満たされているから、だけとは言えまい。その傾向が感じられるようになったのは、
明らかに榊の悩みと時期を同じくしてのことだから。
- 904 名前:夜の追憶(3) 投稿日:04/05/02 21:02 l6lKKjLR
- しばしの時を置いて、ぽつりとした返答。
「嫌いになったわけじゃ、ない。ただ……君も判ってるだろうけど、代償行為だから。可
愛くない自分のコンプレックスを埋め合わせるために、ああいうものに憧れて。それを可
愛がって同一化する間は、自分も『可愛い自分』でいられて」
慎重に耳を傾ける神楽。榊の声は、心の深みを打ち明けるぎこちなさを伴って続く。
「……でも、私はもう、可愛いものへの憧れにただ浸っていてはいけないところまで来て
しまった。自分自身も変わらなきゃいけなくなった。だから……素直に可愛がることにた
めらうようになってしまって。人形を抱くたびに、自己欺瞞に逃げているような思いが心
のどこかで脅迫的に浮かんできて」
「それはそれ、これはこれでいいじゃないか」
そう答えてはみるものの、その言葉に白々しさを感じずに済むほど、神楽だって能天気
ではなかった。自己像の問題で苦悩に突き当たったのは、むしろ自分が先だ。スポーツの
世界で超えられない壁を見せつけられたのに、自尊心を保つためしがみつき続けようとす
る自分に、どこか欺瞞を感じていたのではなかったか。連日榊に挑む勝負バカの仮面の下
には、当面の勝ちを得ることで才能への怯えをごまかしたい焦りがあったのではなかった
か。そうして自分自身を腐らせていくかのような煩悶は、つい一年前まで心の奥に巣食い、
蝕み続けていたものだ。
あるとき榊の愛に恥じまいと決め、適度な諦めを受け入れることで、どうにか吹っ切れ
ることはできた。きっと遅かれ早かれぶつかった問題ではあって、今となってみれば、そ
の相手が榊だったことに絆を感じることさえできる。けれども、あの頃の自分はそんなこ
とを考えることもできなかったし、榊がかけてくれる心配に対しても、聞き入れるような
態度をしながら、肝心なところではずっと顔をそむけていたものだ。
寄り添っていたって、愛していたって、心は遠く離れてしまえるもの。それを自ら熟知
していればこそ、神楽の寂しさは募る。もちろん、自分だけはこっち側の立場を拒否した
いなんて、何ともわがままな話だろう。だけど――。
- 905 名前:夜の追憶(4) 投稿日:04/05/02 21:02 l6lKKjLR
- 「一つだけ、約束してくれ」神楽は言った。「大事なことを一人で勝手に決めちまうことだ
けは、しないで」
返答は――なかった。
この野郎。
「おい、停めろ!」神楽は声を荒げた。「いいから停めろ!」
いま走っている山際の道は、他に車も人も見当たらない静かな場所。市街地の明かりは
片側の斜面から遠く見下ろすのみで、もう片側は林になっている。その林側に、車はゆっ
くりと寄って停まった。
まだこっちを見ようとしない榊を睨みつけながら、神楽はシートベルトを外して身体を
乗り出し、問い詰める。「どういうことだよ。ふざけんな」
「無理に……言わせないでくれ」
「わかった。じゃ、愛してるって言え。それも無理か!?」
まだ、榊は押し黙っていて。
その頭の後ろに手を回し、ぐい、と引き寄せると同時に、唇同士を押しつける。ハンド
ルから離れた榊の手が、拒絶するかのように肩を押してくる。が、その力に本気は感じら
れない。取った腕を軽く捻り上げながら唇を一通り蹂躙して、神楽は榊を解放した。
まだ矜持を保つかのように、無表情を保つ榊。瞳に灯った興奮を隠すように目を逸らし、
濡れた唇はあくまでも固くつぐんで。
「私は、いくらだって言える。苦しんでた時だって、おまえにはいっぱい言ったはずだ。
愛してる。愛してる」瞳を覗き込みながら、繰り返した。「言えないのかよ」
半ば苛立ちを込めた声で、榊は強く言い返す。
「それは、言わなくたってわかるだろう! 強制するのが無神経だと言ってるんだ!」
神楽は、榊の手をそっと握った。「……ガサツで悪いな、昔からさ」静かにつぶやく。
「でも、普段言わないと、そのうち本当に言えなくなっちまうこともあるかもしれないっ
て……。何か、そんな気がするから。長い時間かけてここまで来たのに、また会った頃み
たいに壁作られちまうなんて、絶対に嫌だよ」
- 906 名前:夜の追憶(5) 投稿日:04/05/02 21:03 l6lKKjLR
- 握った手が外された。拒絶されたかと一瞬思う。が、それは榊が自分のシートベルトを
解くためだった。するり、と音がし、自由になった榊がシートを後ろに引く。こちらを向
く顔の上には、ライトと外からの闇とが、端整な陰影を織り成していて。
「……いいよ。確かめたいんだろう?」誘う声には棘もなく、ただ穏やかだった。
しばらく見つめ合ってから、神楽はおもむろに腰を上げた。
――乗ってやるさ。そう、これができる限り、あの頃とは違うと信じられる。
狭い座席内を慎重に乗り越え、運転席の方へ移る。身体の大きさからすれば、自分が移
る側になるのは確かに順当だろうが、背中側のハンドルがやはり邪魔だ。榊の開いた脚の
間へ身体をはめ込み、否が応にも密着し合うことになる。
車内でキス以上のことをするのは初めてで、要領もよくわからない。わからないなりに、
服の上からでもとにかく榊の胸を探る。露出した首筋に顔を寄せ、温もりを感じ合う。か
さかさと衣擦れの音。やがて不器用なりの欲情が呼吸に滲み始め、お互いを高め合う。
榊の指が、ぎこちなく上着のボタンを探ってきた。一つ一つ下から外され、胸元へ上っ
てきて。胸の谷間に差し込まれた指の先端がひやりと丸く、神楽は微かな嬌声をあげた。
そしてブラがフロントホックと知った途端、榊は興奮も露わに外しにかかる。思惑がみご
と叶ったことに、神楽は内心快哉を叫んだ。
はぁ、はぁ…と柔らかい息をついて神楽は高まり、右手を伸ばしてライトを消した。ま
だうっすらと明るさの混じった、青々とした闇が落ちかかる。視覚が後退したぶん感触が
研ぎ澄まされ、乳房が晒け出される解放感だけでも興奮がつのってくる。それを榊の掌に
包み込まれればなおさら。固まった乳頭を押し潰すようにゆっくりと揉み回されれば、も
っとなおさら。歓喜はみるみる盛り上がって、甘い叫びが口をついた。
- 907 名前:夜の追憶(6) 投稿日:04/05/02 21:04 l6lKKjLR
- そして待ち焦がれた通り、残った片手がミニスカートの下へ滑り込んできた。榊の指は
巧みにショーツの縁を引っ掛けて、尻を存分に撫で回しながらほんの少しずつずり下ろし
ていく。じれったく、じれったく。この脱がし方はきっと天性の絶妙さだと思いながら、
神楽は急かしたい気持ちを押し殺す。たまらなくて、声にならない息を漏らしてまでも。
けれど、それもすぐに声になってほとばしった。だって、落ちそうなショーツの前の部分、
布越しにぐっと指を突き立てられたから。
「あっ……いや」と言うのはもちろん誘いで。何しろ、その布がぐっしょりと濡れている
のは判りすぎるほど。薄い一枚を隔てて入り込んでくる榊の指が節操なく暴れまくり、自
分のいやらしい部分をさすり上げている。
感じるところを、揉まれ、しだかれ、擦り上げられて。昂ぶりが、どんどん溢れ出して。
「ふぁ……あ、あぁ、あっ!」感極まって、神楽が伸び上がった瞬間――。
ガン、と天井に頭をぶつけ、視界が大きく揺らめいた。
榊の慌てた声がかけられる。「…大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ」軽くよろめきながら神楽は答える。特段に痛みはない。
しかし――少し白けた空気が、二人の間に漂った。闇の中の静寂が、数秒間気まずく続
いた。
それを振り払うように、神楽は宣言する。「い……いや。続けよう」
そう、こんなところで不完全燃焼なんて絶対に嫌だ。まだまだ、煽れば火はすぐに燃え
上がる。
榊も、それで安心したようだった。とはいえ。
「やっぱり、この中では無理があるかな……」
確かにそのようだ。たとえ後部座席に移ったとしても、狭いことにはさほど変わりなさ
そうだし。それに、シートが汚れることを気にすれば、あまり自由にできそうにもない。
とはいえ、今からホテルを探すというのも。
やがて自然と、窓の向こうの林に視線が向いた。そんなのは初めての試みである。それ
に対する期待と不安に、二人はごくりと固唾を飲んだ。
- 908 名前:夜の追憶(7) 投稿日:04/05/02 21:05 l6lKKjLR
- とりあえず開けたドアから、神楽はぎこちなく移動して外へ降りる。ずれたショーツは
穿き直す方が動きやすいとは思うけど、ぴんと張った縁が腰の周りにこすれる快楽は、手
放したくなかった。
広々とした夜が、神楽を包む。ひんやりとして静かな闇が、木々の奥深くで待ち受けて
いる。その眺めに何だかぞくりとした。自分のはだけた服の下に、もう闇は這い込んでき
ているよう。
振り返ると、榊が車内をあさっている。ウェットティッシュのケースと、非常用の懐中
電灯を取り出して見せ、自信なさげに尋ねてきた。「とりあえず、これで……いいのかな」
「その……後ろの席に置いてるバッグに、道具が入ってる」神楽は恥じらいながら言い、
ちょっと呆れたような様子の榊に、懸命に反論する。「きょ、今日は、それぐらい盛り上が
れたらいいかもなって思ってさ。帰りにホテルに寄るとか、あるかもしれないじゃん。ま、
万が一ってぐらいの気持ちでだからな!」とはいえ、実際これからそれをするのだから、
言い訳にも何にもならないわけだが。
榊がバッグを取ってきた。その中にウェットティッシュを納めて車から降りる。「もう…
閉めていいかな?」
努めて保ち続けている欲情が、神楽の身体を火照らせていた。あられもなくはだけた下
着が肌に沿う感触が気持ちよくて、けれど、さらに自分を解放したい欲望の方が大きくな
ってきて。
開いた上着の中から、外れたブラをするりと抜き出す。車内に放り込み、じっと榊の目
を見上げる。
榊が手を伸ばし、軽く上着のボタンをかけてくれた。「せめて……前ぐらい隠そう」
「……どうせすぐ、するくせに……」上目づかいに挑発の言葉を口にする。榊の息が少し
止まったように思えた。
- 909 名前:夜の追憶(8) 投稿日:04/05/02 21:06 l6lKKjLR
- 神楽は靴を脱ぐと、ミニスカートの下から手を入れた。榊に見せつけるように、ショー
ツをゆっくりずり下ろしていく。黒々とした地面の上に白いゴムがぴんと伸び、引き上げ
た膝がそこを通り抜けるとき、濡れた布地にぴちゃりと触れた。脱ぎ去ったそれを、さっ
きと同じくシートの上に放り込む。闇の中にぽとりと落ちる、その白さが生々しく映えた。
ふと気づくと、その手前にはあのぬいぐるみがのんびりと寝転んでいて、神楽は奇妙な
背徳感を覚える。けれど――そうだ、元はといえばこいつがきっかけなんだっけ。ある意
味で言えば、こいつのためにこんなことをしているような気も。何だか、頑張ってやらな
くちゃいけないのかもな――。
ばたん、とドアが閉じられた。向き直った榊がバッグを手渡してくる。神楽がそれを右
手に持つと同時に、残った左手が緩やかに握られた。榊も、もう昂ぶっているのだ。
そして二人は、林に向けて歩み出した。
しんとした夜の中。榊が持つ懐中電灯の微かな明かりを頼って、木々の深みへ進めば進
むほど、二人きりだという密やかさの感覚が強まっていく。ときおり下生えを踏む微かな
音だけが、沈黙の中に繰り返す。一歩足を踏み出すたび、その内股に剥き出されている自
分自身の解放感が、スカートの下で高まってくる。
つながる手から伝わる、榊の体温と指の感触にさえも欲情してしまって。そっと指をず
らしながら、榊の手を愛撫する。敏感な掌の内側に指の丸みを押し当てて、軽く軽く撫で
さする。ひくりと、榊が感じたのがわかった。だが逃げるどころか、向こうからも求めて
絡みついてくる。闇の中を歩む二人は無言のポーカーフェイスで、けれど汗ばむ指は既に
激しく交わり、せめぎ合っていた。
「んっ…ぁ」次第に荒くなりゆく息の中から、先に声を立てたのは神楽。たまらず足を止
め、うめく。「も、もう…やめっ」
それでも、榊の執拗な攻め立てはもうひとしきり続いた。指の先から掌の下までを大き
く撫で上げられて、許しを得るまでに神楽はもう一声、叫びをあげた。「……あッ!」
- 2 名前:夜の追憶(9) 投稿日:04/05/02 21:27 l6lKKjLR
- 少し開けた場所にある、一本の大木の前に二人は来ていた。榊は手を離すと、張り出し
た低い枝に歩み寄り、懐中電灯の紐を引っ掛けてぶら下げる。冷たい光が、幹の前の空間
だけを切り取った。それはかりそめの、愛欲の舞台。
「服も……ここにかけるといい」いつもの低く凛々しい声で告げると、榊は背を向けてバ
ッグの中を探り始めた。
まだ愛撫の感触をとどめる掌を、神楽はやり場なく胸に当てて耐えていた。その胸の中
で、体験したことのない高揚が湧き立ってくる。
息をひとつ飲み込むと、とりあえず靴とソックスを脱いで、ひんやりとした地面を踏む。
その冷たさが、何か落ち着きを感じさせてくれた。ゆっくりと枝の所へ向かい、僅かに残
る戸惑いを振り切って上着を脱いだ。大きな乳房を外気に晒しながらそれを枝に掛けると、
ついに最後に残ったスカートを開き、引き下ろす。
一糸まとわぬ姿になって、スカートを枝に並べたのとほぼ同時に、いきなり背中から抱
き締められた。榊の方はまだ服を脱いでもいない。そんなに待ちきれないでいるのか。
早いよ、と抗議する間もなく、榊の手が胸を掴む。その掌には、バッグに入れていたロ
ーションが塗られている。ぬるぬると塗りつけられながら、乳房をこねるように揉み上げ
られる。「あっ……」息をついてうつむいた視界の下端で、ぬめった乳頭が綺麗な指にされ
るがまま、いやらしく盛り上がり、跳ね回っていた。
そして榊のもう片手は、下腹部へと這わされていった。ぬめりを伴う手が、早くも内股
へ差し込まれていく。肝心な所はまだ攻めず、縁をねっとりと撫ぜてくる。
精一杯の抵抗心で、神楽は喘ぐ。「こ、こんなにつけやがってさ…ぁ、後で……ちゃんと
拭いて、よ……」
「ふふ、君の方が自分でいっぱい……濡らしちゃうんじゃない?」
囁かれながら中へ差し込まれた瞬間、「っ!」カッと耳まで熱くなった。
ああ、もう駄目だ。とことん欲情すると、榊はすごく嗜虐的になってしまう。もう、い
つもの優しく気品ある恋人ではない。
- 3 名前:夜の追憶(10) 投稿日:04/05/02 21:28 l6lKKjLR
- 突っ込まれたままよたよたと歩かされて、木の幹に両手をつく。下を攻める手を素早く
組み替えられて、バックからされてしまう。容赦なく、何度も何度も。「おしり、もっと出
して」榊が言う。「脚、いっぱい開いて」榊が言う。おまけに、首筋を舐め上げてくる。神
楽はもう、言われるがまま。夢中でとるのは、きわめて恥辱的なポーズ。あそこも、いっ
ぱい広げられて。自分の内側、肉壁が休みなく擦り上げられている。大好きな人の、その
指に。
周りの空間が、とてもとても広い。どこまでもつながっている。空の遠い彼方までも、
あらゆる世界の果てまでも。ああ、こんな世界の真ん中で、私は何て格好で。何てはした
なく歓んでしまって。何て――。
初めて味わう果てしない羞恥に、神楽の背筋からぶるぶる震えが這い登った。いけない。
喉から飛び出しそう。下を向いて、懸命にこらえても。
「あ、ぁっ! こぇ……出ちゃぅ…よっ!!」
「だめだ…」嘲笑うような声。「もし、どこかに聞こえたら!?」
「いや、いわせて! いいたいの、いぃ……ひゃっ!?」
顎を掴まれて、指を口に突っ込まれた。ぐっ、と乱暴に顔を持ち上げられる。舌を封じ
られたまま、唇と口蓋を執拗に愛撫される。ああ、もう私、上も下も挿れられて。いっぱ
いに満たされて、犯されて――。
声の出せないもどかしさに首をよじり、上を向いた。薄く涙の浮かぶ目を開いたとき、
広大な星空が落ちかかってきて。
――ああ、本当にこんな広いところで。
そう感じた瞬間、神楽はあっけなく頂点に達した。
- 4 名前:夜の追憶(11) 投稿日:04/05/02 21:29 l6lKKjLR
- 身体中を走る波にひとしきり耐えた後、神楽はがくがくと膝を屈してへたり込んだ。乱
れ果てた息づかいが自分自身を酔いしれさせる。加熱した身体を、自分でも支えきれない。
その持っていき所が欲しくて、とうとう地面の上にごろりと仰向けになった。背を覆う冷
たさが心地いい。柔らかく当たる下生えの感触も。
見下ろす榊の目は、平常心を取り戻してきたようだ。「よ……汚れるよ」
「地面は乾いてるから……私も、背中は濡れてないしさ」感触を楽しみながら、うっとり
した声で神楽は言う。「……ねえ。このまま、しよう」
確かに、榊の長髪を土で汚さずに身体を合わせられる体位としては、騎乗位をおいてな
いだろう。立ってするには身長が違い過ぎることは、十分わかっているのだし。
ごくりと、榊の喉が鳴ったように思えた。しばしの沈黙があってから、「……うん」と頷
き、榊は上着のボタンに指をかける。
「早くしないと……」と、神楽は自らのそこに手をやって、見せつけるように自慰の素振
りをする。「一人で、また……ちゃうよ」
榊が上着を脱いだ。しなやかで均整のとれた半身があらわになる。と、榊は神楽のすぐ
そばへ歩み寄ってきた。あらためて見つめられる羞恥の中で、神楽は何とか意地を張って
みせる。「んっ、な、何だよぉ……」
「ちょっと、上げて」
「え……?」声をかけられて、神楽は腰を低く浮かせる。それこそ、よく見せるようで恥
ずかしい。その下に、榊は上着を滑り込ませて広げた。「土とか、入ったらいけないから」
「えっ……でも」
「帰って洗うだけだし。君の方が大事だからね」
どきりと胸が高鳴った。さっきあんなにしておいて、何てずるいんだろう。湧き上がっ
てくるのは淫欲とはまた違う、純粋な喜び。だけどそれも結局は、欲望にますます火をつ
けてしまう。満ち溢れる愛液が尻を伝わり、つっと垂れていくのが判る。ああ、何て自分
はいやらしいんだ。この服も、きっとますます汚してしまう。でも、でも――。
「ほしい……」神楽は切なく、懇願の声をふりしぼった。「欲しいよっ…!」
「すぐに行くよ」
- 5 名前:夜の追憶(12) 投稿日:04/05/02 21:29 l6lKKjLR
- そして間もなく、全てを脱ぎ捨てた榊が、いつもの装具を手にやって来た。それを神楽
に着けさせる。
「ぁ…ん」咥え込んだものをぐっと握り締め、支える。上にしゃがみ込んだ榊が大きく股
を開き、毛の下にぱっくり開いた亀裂をかぶせていく。光の中でぬめぬめと粘膜が輝いて
いる。すごく下品な光景だ。なのに、じっと見つめ下ろす榊の眼はいつものように綺麗で、
そのギャップに神楽は少し眩暈を覚える。
どうやら、榊の方でもとっくにでき上がっているようだった。攻めるばかりだったこと
の反動なのか、榊の求め方は最初から激しく、大きく腰を振っては喘ぐ。
「は…んっ! ああっ……」何度も何度も、神楽の名前を呼んで。
「おまえ、ずるいよ…」ぞくぞくと高まってくる快感に耐えながら、神楽は甘い声でたし
なめる。「自分も、声、がまんしろよぉ……」
聞き入れて、榊は自ら口に手を当てる。こみ上げるものを懸命にこらえながら、いっそ
う身体を揺すり続ける。豊かな乳房の揺れは、ゆさゆさと激しすぎるほど。
そのいじらしい表情に嗜虐心を掻き立てられて、神楽は密かに企んだ。
「ねえ……もっと来て。顔、よく見たいよ」
声をかけると、榊はゆっくりと身体を倒してきた。頭が、神楽の手の届く位置まで来る。
そこで素早く、口を押さえる榊の腕をつかんで取り払った。榊のもう片方の手は、身体を
支えるために地面から離せない。
「あっ…だめ」抗議されても、離してやらない。このぐらいの仕返しをする権利はある。
榊は今や泣きそうな顔で、赤い唇の中から切なげにつぶやく。「…いじ、わる……」
追い討ちに、神楽は力を込めて突き上げた。「あぁ!!」悲鳴をあげる榊を、さらにいた
ぶる。「声、出すなってば……」
「だって……だって」
神楽は榊の瞳を見つめて、にやりと笑いかけてやる。「ずっと、見とくぞ」
じわり、と榊の瞳が潤んだ。恥辱に肩が震え始めている。けれども、眼はそらさない。
神楽の側も同様で、二人はお互い吸い込まれ合うように見つめ合った。
さあ、もうこのまま――。
そして神楽は、力いっぱいに攻め立てた。榊は懸命にむさぼった。ずっと、見つめ合っ
たままで。奪った榊の手には地面をつかせていたけれど、いつしかそれも神楽の手と握り
合わされていた。
- 6 名前:夜の追憶(13) 投稿日:04/05/02 21:31 l6lKKjLR
- 「んっ、んんッ!!」頑張って耐え忍ぶ榊の顔が、本当にいとおしくて。神楽の脳裏に、
一つの言葉が浮かび上がる。
「なあ」
「な、に……」
「かわいい」
「ッ!!」
手が、ぎゅっと握り締められた。榊が限界に達する合図。神楽もまた、遠からず――。
「あっ、もぅ、がまん、できな……! ねぇ、いっしょに、いっしょに!」
「だめぇ、だめッ……うっ、ぁ、わぁ! あああッ……!」
神楽は最後の気力を振り絞って半身起こすと、榊の頭を抱いて力強く口づけをした。
「う、くっ……!!」
差し込んだ舌を強く絡めて、お互いの声を封じ込める。間も置かず、榊の舌が、ひくり
と果てた。榊の身体が、押し殺された叫びが逆流したかのように大きく打ち震える。その
一体感の中で、神楽もまた絶頂にのぼりつめた。頭の奥が真っ白になり、涙がぽろぽろと
零れ落ちる。自分が自分なのか、榊なのか、それすらわからなくなるような融合の境地の
中で、神楽はひたすらに震え続けた。
どれくらいそうしていたのか。頂点からやっと降り始めた頃に口づけを解き、二人は余
韻の中で、激しく甘い息に浸り合った。
そうしてしばらくの時が過ぎた頃、榊が静かにつぶやいた。「……泣いてるの?」そして、
くすりと微笑みを浮かべ。「昔から、君は泣きやすいね」
「……うるせえ」ちょっとは突っ張ってみる。
榊が顔を寄せ、涙の跡を自分の頬で拭ってくれる。その心地よいくすぐったさに耐えな
がら、子犬みたいだな、と神楽は思った。
- 7 名前:夜の追憶(14) 投稿日:04/05/02 21:32 l6lKKjLR
- ――おまえさ。
なに?
やっぱり、可愛いよ。少なくとも私には、すごく可愛い。昔から言ってるだろ?
…………。
そりゃ、おまえの問題は自分で解決するしかないんだと思う。でも――自分に対する評
価って、けっこう偏ってたりするもんだぜ。私が自分なんかダメだと腐ってたときにも、
おまえは好きでいてくれたみたいにさ。私が見てるおまえも、たぶんおまえが思ってるの
とは違うんだろう。たとえ変わるのが怖くても、それに変わっちまったと思っても、実は
そんなでもないかもしれないし。だから――もうちょっと考えに余裕持っていいと思うよ。
いつも、そばで見てるから。私が言えることは、そのぐらいだけどさ……。
……ねえ、さっき言えなかったけど。
ん?
愛してる。
……遅せぇよ、ばか。
深い深い夜の底は、また静かになった。
- 8 名前:夜の追憶(15) 投稿日:04/05/02 21:34 l6lKKjLR
- 底から上昇するように、ぼんやり意識が浮かび上がってくる。カーテン越しにも、朝の
日差しが眩しく視界を照らし出した。
あれ。見慣れない部屋だ。寝ているのはベッドの上で、自分以外には誰も見当たらない。
ああ、そうか。ここは合宿所の寝室。そして今までのは夢だ。何年も前の出来事を、眠
りの中で再体験していた。
あれは……良かったなあ、と、ちょっとにやけながら神楽は起き出す。あの夜の言葉は、
実際に榊を力づけられたともいう。二人で悩みながら歩んでいた時代も、今となってはい
い思い出だ。
しかしそれにしても、何でこんな所であの夢なんだろう。寝る前に、何か思い出すよう
なきっかけでもあったっけ。そう考えてみると、昨夜の記憶は不明瞭だ。それに、何だか
頭がずきずきするが――。
寝室を出て少し歩いたところで、部員の少女にばたりと出会う。神楽の学生時代のタイ
ムを目標に頑張っている子。既にジャージ姿で、顔色からすると運動してきた後の気配だ。
「……あっ? まさかもう朝練終わったのか!?」
「は、はい。先生起こすの悪いなって、みんなで……」
「うわ、すまない」いつもなら絶対あり得ない失態だ。「……なあ、ゆうべ何があったっ
け?」
「それは……」少女は、何だかちょっと辛そうに口ごもり、「あの、ちょっと片付けがある
ので」と走り去っていった。神楽にはどうにも訳がわからない。
- 9 名前:夜の追憶(16) 投稿日:04/05/02 21:35 l6lKKjLR
- ミーティングルームに入ると、テーブルの上に並べられた空の缶やペットボトルが目に
入る。昨夜、部員たちとここで飲んでいた覚えがある。そういえばあのジュースのラベル、
集めると復刻版ジャンボねここねこが当たるとかで、メモに貼り付けておいたっけ。
ふと、その中に酒が数缶あるのを発見する。たしか不真面目な部員が持ってきたのを取
り上げて、強くもないのに場のノリで飲んでしまったような――。
嫌なデジャブ。
やがて入ってきた部員たちが、奇妙な尊敬の眼差しで口々に神楽を賞賛し始めた。先生、
大変勉強になりました。尊敬します。
――帰ったら、榊への土産話にするべきだろうか? やっぱり怒られるかなあ。ネタと
してはおいしすぎるのだけど。まだ痛みの残る頭で、神楽はぼんやりとそんなことを考え
ていた。
窓の外には清々しい青空。あのときも今も、空はただ広大に見下ろしているだけである。
(了)