
- 44 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:42 heFLyMYn
- それは美浜家別荘に遊びに来ていた日の夜のことだった。教師二人と大阪、
ちよは別室でテレビを見ていて、智、暦、榊の三人が、なんとなくだらだらと
トランプで遊んでいた。
「そういえばさー、よみと榊ちゃんって、実は仲悪いの?」
カードを捨てながら、明日の天気を訊くような気安さで突然智が言った。
何となく気まずくなってしまい、二人は固まってしまう。
「ねえ?」
「……あのなぁ」
答えを催促する智に、あきれかえって暦がため息をついた。
「おまえ、どうしてそんなに無神経なことが言えるんだ?」
「だってさー、あんたと榊ちゃん、あんまり口きいたとこ見たことないもん」
暦はぐっと言葉に詰まった。榊も、うなだれて何も言わなかった。
確かにそうだった。暦は、最近榊と会話したことがないか必死で思い出そうとしたが、
全く会話した覚えはない。しかし、このまま気まずいままでいるわけにもいかず。
「えっと……お、お、おまえが見てないだけだろ! ね、ねえ、榊さん」
「えっ……? あ……」
榊は必死になって呼びかけた暦の顔から、一瞬目を離してしまった。あわてて
視線を戻し、話を合わせようとするが、言葉が出てこない。
「……あ、いや、悪かったよ」
あまりの空気の重さに、はっとなって智も謝った。
- 45 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:43 heFLyMYn
- 「ご、ごめんね、榊ちゃん☆ い、いやー、こいつ性格悪くてさー、人の
悪口ばっかりしか言わないから、喋らなくて正解! さっすがだねー榊ちゃん」
「お、おい誰がだ……」
ばん、と手を合わせて拝むようにして、笑顔でおどける、智の精いっぱいの
アクションに、やっと空気が少しだけ緩んだのだが。
「……い、いや。私こそ悪かった。その、ごめん」
やはり耐えられなかったのか、榊は本当にすまなさそうに詫びて、部屋から
出ていってしまった。
若干の沈黙の後、やっと残された二人は口を開く。
「おまえさあ、マジで今のは神経疑うぞ」
「う……ちょっと聞いてみたかったんだよー」
智が悪いのは確かだが、自分が事実榊とはほとんど口をきいていないということに
何となく負い目を感じて、智を責めきれなかった。
「案外、そう……」
「え? なに? なにか言った?」
「い、いや、風呂入ってくるって言ったんだよ!」
これ以上ここで智と話していると、余計に墓穴を掘りそうだ。そう思い、暦も
そそくさと部屋を後にした。
- 46 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:44 heFLyMYn
- 「私って、榊嫌いなのかなあ」
脱衣所で、暦はぼそっとつぶやいた。あるいは、榊に嫌われているのか、
もしくはその両方か。とにかく、榊とは会話していない。軽くかぶりを振り、
ため息をつきながら風呂場に入ると、そこには先客がいた。
「あ……」
「榊……さん」
ずっと考え込んでぼんやりしていたため、脱衣場に服があったことも、中に榊が
いたことも気がつかなかったのだ。また二人を襲った気まずさから逃げるように、
暦があわてて言い訳した。
「ご、ごめん! その、気づかなくてな……」
「…………」
「じゃ、邪魔して悪か……」
くるりと榊に背を向け、出て行こうとしたとき、榊が口を開いた。
「あの……」
「え?」
「その、このお風呂広いから……」
「…………」
「別に、一緒でも……」
確かに、この別荘の風呂は、個人の家の風呂としては広すぎるほどだ。二人と
言わず、四、五人でも問題なさそうだ。それに、すでに服を脱いでしまっていて、
今さら服を着直して部屋に戻るのもなんだし、脱衣所で裸で待っていると言うのも
何か変だ。さらに、榊が、わざわざ呼び止めて、一緒でもいいと言っている。
もちろん、さっき暦が感じた負い目と同じものを榊も感じているからの行動かも
しれないが。
(とりあえず、めちゃめちゃ嫌われてるってわけでもないってことだよな……)
暦は、再びくるりと向きを変え、後ろ手に扉を閉めた。
- 47 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:46 heFLyMYn
- 体を洗える蛇口は三つもあった。榊がその真ん中を使っていたため、必ず
榊と隣り合うことになる。とりあえず、出口に近い側の蛇口の前の椅子に腰を
下ろした。体を洗い終え、さて髪をと言う段になって暦は改めて思った。
(……気まずい)
体を洗っているあいだ中、お互い口を開かず、黙ったままだった。これでは、
それこそさっき智が言ってた通りだ。それに、暦自身この空気がだいぶ辛くなって
来ていた。なんとか、会話の糸口を見つけようとした。榊を見ると、長い髪を
洗っている。これだと思った。
「お、お互い、髪が長いとさ、大変だよな」
「……うん」
沈黙。
「あ、あんた、髪きれいだよね」
「そうかな。そっちの方が」
沈黙。
「い、いや。で、でもさ。そんなに長いと大変だろ……」
「慣れた、から」
沈黙。
- 48 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:47 heFLyMYn
- 「ああもう!」
ついに暦が耐えきれなくなった。榊がびっくりして暦を見る。
「あー、榊さん。もうこの際はっきり聞かせてもらおう。あんた、私のこと
嫌い? どう?」
榊はますますびっくりした。目を丸くしたけれど、なんとか返事をする。
「あ、いや、嫌いってわけじゃ」
「ほんとに?」
暦が座ったままぐっと榊に身を乗り出すと、榊は座ったままちょっと引く。
「う、うん。あ、あの……」
「ん? なに?」
「えっと……」
「いや、もうはっきり言っちゃってよ。悪いけどさ、もう、なんか、ね」
「えっと、その、よく分からないんだ」
「え?」
「あまり、話さないし」
「…………」
榊が、視線を下に落とす。
「ごめん。私がいけないんだ。口下手で、だから……」
「ま、まあ、待て待て」
暦が慌てて取りなす。暦は完全に開き直っていた。ここで、こいつと話できるように
なってしまっちゃおう。失敗して、本当に仲が悪くなったらそれまでだ、と。
- 49 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:48 heFLyMYn
- 「いや、私にも原因はあるからな。なんか、ね。私もほら、あんまり話うまい方じゃ
ないしな」
「そんなことないと思う」
「ん。そうかな。まあ、それでな、私も榊は嫌いじゃないけど、なんかよく
分かんなくて、それでな、うん」
暦は一旦言葉を切った。軽く一息入れる。
「まあ、そんなわけで。うーん。そっか、嫌いじゃないか」
榊が、少し顔を上げた。
「私も……嫌われてなくて、ほっとした」
わずかに照れながらそう言った榊が、なんだかおかしくて、暦はクスッと笑った。
「え……」
「い、いや。あんたもそんな顔するんだって」
「……そんな、イメージかな。やっぱり」
そう言った榊も、伏目がちだけど軽く微笑んでいた。その顔に、なぜか暦はしばし
見とれてしまった。
「……なに?」
「い、いやぁ、その、やっぱり髪きれいだなーって……」
見とれていたことをごまかすために、髪を褒めながら改めて榊の全身を眺めてみた。
(あっちゃー、こりゃー勝てないわ。分かってたけどさ……)
同じクラスの女子だから、体育の着替えは一緒だけど、一糸まとわぬ姿を見るのは
これが初めてだった。改めて見て、そのプロポーションの良さに暦は感心した。
きれいだけど、それでいてりりしい。女子のファンが多いのも、うなづける。
眺めているうちに、暦の心にちょっとしたいたずら心が生まれて来た。
- 50 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:48 heFLyMYn
- 「ちょっと触らしてくんない?」
言いながら榊の髪に触れて、二、三度なでた後、逆の手を胸に伸ばした。
「あ……!」
「なにびっくりしてんのよ。触りっことかしたことない?」
暦は、中学時代智とよくふざけて触りあったりしていた。別に変な意味はなく、
ただお互いからかい合うだけのものだった。周囲の女子のしているおふざけの
触りっこと、全然違わなかった。そして、この時もそのつもりでいた。
「……ない」
「へえ、じゃあはじめ……」
はっと暦が胸から視線を上げると、榊が明らかに羞恥に顔を赤らめている。
その表情と、自分が「はじめて」と言いかけたことに、妙ないやらしさとやばさを
感じて、あわててその感覚を否定する。これはおふざけなんだと、自分と榊に言い
聞かせる。
「な、なに恥ずかしがってるの。女同士なんだから、平気だろ?」
「う、うん……」
この間にも、暦の手のひらは、榊の胸の感覚を暦に流していた。触り心地がいい。
智とは違い、しっかりと張りがあり、豊かで柔らかい。知らず知らずのうちに、
暦はその感触に引き込まれていた。
「っ……あ」
榊の上げたか細い声に、やっと暦は自分がしていることに気がついた。すでに
髪を撫でていた手も胸に伸ばされ、下から胸をつかんでいる。
- 51 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:49 heFLyMYn
- (やばっ……私、はまってる?)
そう思いながらも、手を離すことができない。ゆっくりと胸を揉んでしまっている。
「さ、榊。変な声出すなよ……べ、べつに変なことしてんじゃないんだから。
お、女同士だろ?」
「う、うん」
必死にごまかす中、暦はいつの間にか自分が榊を呼び捨てにしていることに
気がついた。けれど今は、さんづけで呼ぶよりも、呼び捨てにした方がいいような
気がした。呼び捨てにしたかった。
「あ、あの……」
顔を赤くして、それでも恥ずかしさを必死にこらえて、暦に抗議しようとする榊。
(か、かわいい……な、なんで榊こんなにかわいいんだ……?)
暦は、体の奥で感情がうねるのを感じた。やばいことになりつつあると自覚して
いても、気持ちを抑えきれず、口が開いてしまう。
「な、なんだったら、榊も私の、さ、触っていいぞ……?」
「んっ……そ、そんな……。こっ、あっ、こ、こんなの……」
言った瞬間、何をバカなことを言ってるんだ! と自分に突っ込んだ。しかし、
それと同時にほとんど無意識に指で榊の乳首を刺激していた。吐息まじりの榊の
声が、ますます暦の理性を溶かしていく。そして、榊の手が暦の胸に触れた瞬間、
熱いため息が漏れた。
「ああ……。さ、榊。こ、これは、ふざけてみんなやるんだから、仲良くなった
証拠っていうか」
「んっ。う、うん……」
- 52 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:50 heFLyMYn
- お互い、胸に当てた手は緊張と興奮でぶるぶる震えている。だが、やはり暦の
手の方に余裕はある。ゆっくりと、しかし下から持ち上げるような動きを始めた。
「あっ、そ、そんなしないで……あ、ふっ」
「さ、榊は、こんなことしたことない?」
もう真っ赤になった榊が、ふるふると首を振る。
(くーっ、か、かわいい……)
「ね、ね、榊も、私のこういうふうにして……」
たどたどしいものの、言った通りに榊の手も動いてくれた。やばいと思うものの、
すぐに胸を他人に刺激される感覚に飲まれてしまう。
「あっ……榊は、すごいね。んっ、こんな、スタイル良くて」
「そ、そんなこと、う……っ。ない……」
暦はもう夢中になっていた。榊が喘ぎ喘ぎ喋るのが、嬉しくなってしまっていた。
「勉強、できてさ……スポーツも、はぁっ、万能で……」
「……っ。……うっ」
たまらなくなった榊が、ぐっと頭を倒し、天井を仰いだ。頭の動きに合わせ、
髪がさっとなだれ落ちた。その髪の動きが、この上なく美しく暦には思えた。
「もう、欲しいものなんて、んっ、ないって、感じでしょ?」
「ちがうっ!」
不意に榊が叫んだ。驚きで、手を榊の胸にかけたまま暦が硬直する。
- 53 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:51 heFLyMYn
- 「わ、私……そんなんじゃない」
「榊……」
うつむいた榊の瞳から、大粒の涙がこぼれた。
「人付き合い……苦手で。怖くて……無口で」
「…………」
「一人で……寂……て」
「榊」
「避けられ……友達……なくて」
「避けてないよ」
顔を上げて、暦の顔を見た榊の目を、暦は微笑みながらまっすぐ見つめた。
「ここに来てるやつらは、みんな、あんたの友達だよ」
「…………」
「だから、安心しなよ」
一瞬安らかな顔になり、そしてぐすぐすと泣き出した榊を、暦はそっと支え、
頭を抱いて胸で泣かせてやった。榊の髪を撫でながら、暦は心の中でつぶやいた。
(仲が悪いなんてこと、あるもんか)
- 54 名前:彼女が友達になったわけ 投稿日:03/12/17 01:52 heFLyMYn
- (マズったかな……)
翌朝、目覚めてからも暦の悩みは消えていなかった。冷静に考えてみると、
昨日の晩、風呂場であった出来事は友達と言う関係の範疇を越えていた。
(最後までいかなかったから……ってわけにもいかないだろうし。大体最後って
何だよ)
自分が同性を恋愛対象に選んだというのとは違うと思っている。今もそういうつもりは
ない。けれど、やってしまったのは確かだ。どんな顔して榊と接すればいいのだろうか。
思い悩んでいると、ちよと一緒に榊が目の前を通りがかった。
「おはようございます、よみさん」
「……おはよう」
「あ、ああ。おはよう」
目の前の榊は、何も変わっていないように見えた。内心、ほっとした。と、同時に、
友達なんだから、何も変えることはないな、と思えた。
けれど、一つだけ変わっていたことがあった。それは去り際、榊が小声で暦にだけ
聞こえるように一言つぶやいたことだった。
「ありがとう」と。
(終)