353 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:06 ctvImqQz
「んっ……」
 これで何度目か分からないキス。そっと私から顔を離した神楽は、優しく笑っていた。
夕方を過ぎ、薄暗い部屋。二人並んでベッドに腰掛けている。神楽が軽く私にしなだれ
かかるのを、私もそっと支えていた。
「……初めての時から、ずいぶん経つよな」
「……うん」
「榊、私、まだ覚えてるよ」
 私も忘れてはいない。忘れられるわけがない。
「あのときはなあ……」
そうつぶやき、遠くを見つめるような神楽の横顔を眺める。そして訊く。
「後悔……してないか?」
「バカ言え」
 私に並んでいた神楽が、こちらに向き直って、私の胸にすがりつくような格好になる。
その感触に浸りながら、私はあの時のことを思い出していた。
「どうしたんだよ、榊」
「私も、あのときを思い出していたんだ」
 ふっ、と神楽が笑い、ぎゅっと私を抱いた。そして、ほほをすり合せるように、
体をくっつける。
「ったく、もっと早く言ってくれれば良かったのにさ。なんだってあんなに……」
「だって……」
「ま、確かに最初は驚いたよ」
 そう言って、神楽は私を抱く手に力を入れ直した。

354 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:07 ctvImqQz
「ん?」
 振り向いた神楽と、目が合った。
「なに? 榊。どうしたんだ?」
「い、いや、なんでもない……」
 あのときの私は、ずっとこうだった。暇さえあれば、神楽をぼうっと眺めている。
自分にこんな感覚がわき起こるなんて信じられなかった。神楽を、ずっと見ていたい。
そして、できれば……。
 何度もこの感情から逃げようともがいてみた。でも、それはできなかった。
この感情のことを必死になって本や、最近ようやく使い方を覚えたインターネットでも
調べてみた。そして、どうやら、私は神楽に恋心を抱いているらしい、ということ
だけは分かった。
 でも、それをどうすればいいのかは分からなかった。恋愛映画も、小説も、
柄に合わない少女漫画も、私にヒントをくれなかった。こういう気持ちが初めて
だったし、なにしろ相手は女の子だから。似た状況のかおりんは私への感情を
隠していない。私にとってはかおりんの振る舞いは照れくささや戸惑いは
あっても嫌悪感はなかった。だから彼女のようにすればいいのかもしれない。でも、
私は彼女のようには思いきって動けなかった。
「でさ、あのモデル、色はまあ許すとして、デザインがなー。悪い作りじゃない
らしーんだけどさ、やっぱカッコ良さって重要じゃん……」
 下校の道すがら、こうして神楽と並んで帰りながらも、どうすればいいのかと
いうことばかり考え込んでいる。言ってしまえば、楽なのかもしれない。けれど、
それで神楽が引いてしまったら。私は、またひとりぼっちにもどってしまうん
じゃないか。そう思うと、決心が付かない。けれど、私に強引に踏み込んできた
神楽は、もう私の一部のようになってしまっていて、私から追い出すことも
できなくなってしまっている。
「で、値段もあれはなぁ。さすがにちょっと手がでねーよ。やっぱりおとなしく……」
 考えれば考えるほど、深みにはまっていく感じがした。いっそ、叫び出したかった。
でもそれができない。喉が渇いた。喉だけじゃなくて、心の奥も渇いている気がする。
神楽と一緒なら、今まではその渇きもいやされていたのに、今は全然これじゃ足りない。
どうしたらいいんだろう……。

355 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:08 ctvImqQz
「あのさあ、榊。さっきから何深刻な顔して考え込んでるんだ?」
 その声にハッと気づいてそちらを見ると、神楽がまっすぐに私をのぞきこんでいた。
その迫力に、思わず本当の言葉が口をついて出そうなのをやっとのことで我慢した。
「な、なんでもない……」
神楽は前に向き直った。
「なんでもないならいいけどさ……」
そして彼女にしては珍しく遠慮がちに言う。
「最近さぁ、あんた私の方をちょくちょく見てるじゃん。榊は、私にムカついてるのか?」
神楽に誤解されている。今やっとそれに気づいた。
「私って、ほら、がさつだから、榊の気持ちとか考えなかったかもしれねー。それは
謝る、謝るよ」
「ち、ちが……」
「けど、その……なんて言うかなぁ。ライバルとして、やっぱり信頼しあいたいと
言うか……。ライバルだから勝負はするけど、それ以外のところではな」
「そうじゃなくて……」
「だから、私にムカつくこととかあったら、遠慮なく言ってくれよ」
 誤解をなんとかするには、正直に言うか、神楽をあきらめるしかない。けれど、
あきらめるなんて無理だ……。
「……言ってもいいのか?」
「ああ。もちろんだ」
「ここじゃ、無理なんだ……」
 後戻りのできないのはわかる。うまくいかなければ、私はひとりぼっちになる。
でも、抑えきることなんてできなかった。

356 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:09 ctvImqQz
 神楽の部屋に行くのは、初めてだった。ダンベルが転がっていたりと、どこか
殺風景な感じだけど、かといって乱雑に散らかっているわけでもなかった。
ごてごてと物の多い私の部屋に比べ、さっぱりとした感じだ。
「で、言いたいことって?」
「…………」
 私は、まだ躊躇していた。立ちすくんだまま、動けなかった。
「どうした」
喉がからからに渇き、胃の辺りがきりきり痛む。
「なんだよ。ハッキリ言ってくれよ!」
神楽が、私にぐっと迫る。澄んだ瞳が、私を射抜く。いつもこうだ。こうやって、
私の中に強引に入ってきて、そしてそれに私はとまどいを覚える。そして、とまどう
私の気持ちを神楽が引っぱり出してくれる。それは、とてもとても嬉しいことだ。
「じゃあ、言う」
「うん」
 長めに間を取り、私は、息を一つ吸い込んだ。
「……神楽が、神楽が……好き、なんだ」
沈黙の後、神楽が怪訝そうな顔をして答える。
「まあ、私が嫌われてないってことはわかったけどさ、わざわざこんなにして
言うことじゃねーじゃん。さっさと言ってくれれば良かったのに」
「違うんだ……」
 そう言う意味じゃない。それを、伝えないと。
「そうじゃない……」
「じゃ、やっぱりムカつくとこはあるのか?」

357 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:10 ctvImqQz
もう一度、大きく息を吸い込む。ひざは震え、汗が流れた。体にぐっと力を
こめ直した。
「好き……こ、恋人に……」
「え?」
「好きと言うか、愛して……る。恋人に、して……」
 言ってしまった。その瞬間、時間が止まったような気がした。どれくらいの時間
お互いが止まっていたのかは分からないが、神楽がやっと息をついて、頭をかいた。
「妙な冗談はよせよ……」
「本気……」
 私は泣きそうになっていた。ひざの震えは止まらず、今にも座り込んでしまいそう
だった。ぶわっと汗が吹き出し、頭がくらくらして、息が苦しい。
「え、ええ? マジで? 参ったな……」
神楽がぼりぼりと頭をかく。
「な、冗談だろ? あ、あんた分かってるんだろ! こんなの……」
「ダメなら、そう言ってくれればいいんだ……」
「マジかよ……なんでそんな……ウソだろ……」
神楽はよろよろと歩いていき、ベッドに座り込んだ。その様子を見て、私は
いたたまれなくなった。私はバカなことをしてしまった。神楽を傷つけたんだ。
「ごめん……。ごめんなさい……」
 部屋から出ようとする私の背中に、神楽の声が投げられた。
「ま、待て。考える時間をくれ……」
その声に振り向かず、私は逃げるようにして立ち去った。

358 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:11 ctvImqQz
 翌日、私は神楽と一緒に水泳部の部室にいた。今日は放課後なら誰もいないと、神楽が
私を連れてきたのだ。正直な話、彼女と顔を会わせるのが気まずかったが、
ついていくよりなかった。
「榊、昨日の話だけどさ」
 神楽は怒っているんだ。いや、私を軽蔑してるかもしれない。
「いいよ。付き合っても」
「……え?」
 望んでいた返事だったのに、何を言われているのか一瞬分からなかった。ようやく
神楽の言葉を理解しても、喜ぶよりも驚いてしまっていた。
「付き合ってもいいって言ってるんだ」
「か、神楽……分かってるの?」
「何が?」
「ほ、本当にいいのか? だって、女同士で、しかも私と……」
 神楽は、無理に平静を装ったような顔をしている。
「多分、い、今までとかわんねーよ。だってそうだろ。ずっとライバルとして一緒に
こうして……」
「だって恋人になるって……」
「恋人も何も、そんなに何もかも変わるか! おんなじだろ! そ、それで
いいじゃねーか。榊が、恋人になりたいってんなら、そう思ってれば……」
 確かに神楽の言う通りかもしれなかった。そうかもしれないけど……。
「で、恋人になって、どうしたいんだ」
「…………」
「別にどうもしないってならいいけどさ……」
「……今度の土曜日か、日曜日。デートしたい」
確かめたかった。私と神楽の関係は成り立つのかどうか。
「……デート、かぁ。うん、デートねぇ……。そうか、恋人って……そうだよなぁ」
「……嫌か?」
「いや、試しにやってみてもいい。じゃ、じゃあさ、日曜の午後はあいてる。
それでいいか?」
「うん……」
 お互い、ひどく違和感を感じていたと思う。それでも、私は不安と同時に幸せを感じていた。

359 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:13 ctvImqQz
「あー、おもしろかったなぁ」
「うん」
 夕方、二人でデートの帰り道を歩いていた。二週間前の日曜から数えて、もうこれで
三度目のデートになる。今日も本当に楽しかった。けれど。
「うーん、今日で三回目だっけ? この前言った通りだな。付き合うだなんだって、
そんなに今までと変わんねーよな?」
「うん……」
違う。これだけじゃ足りない……。
「難しく考えることなかったんだよ」
「うん……」
足りない……。これまでのデートのあいだ中、押さえつけていた気持ちが、吹き出しそうだ。
「だからさ」
角を曲がり、路地に入ったところで神楽が立ち止まり、私の顔を見つめた。
「これからも、楽しくやってこーぜ」
神楽の顔を、夕日が横から照らしている。神楽の目鼻立ちのはっきりした顔に陰を
作っている。私は、その神楽の顔に、吸い込まれてしまった。
「……足りないんだ」
「え?」
周囲に人はいない。もう自制がきかなかった。足が前に出る。
「恋人だから……こんなこともしたい」
 神楽の体を、ぎゅっと抱きしめた。一瞬の後、神楽の体が跳ね、私を突き飛ばした。
「な、なにするんだ!」
「……ごめん」
申し訳なかった。だけど、どうしようもなかった。

360 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:15 ctvImqQz
「……恋人だから、か?」
「うん……」
「そ、そうだよな。それぐらいは、許してやらなきゃ……」
「無理には……」
 神楽が、軽く首を振った。
「いや……。でもここだと誰かに見られるだろ」
「ごめん」
「だから、抱くくらいならいいよ。いいけどさ……私の家に来いよ」
私たちは、それきり黙ったまま神楽の家に向かった。私だけが、内心にやましい妄想を
抱えながら。

 二回目の神楽の部屋は、以前とほとんど変わっていなかった。部屋に入るなり、神楽が
口を開いた。
「じゃあ、抱けよ」
「…………」
 私は、神楽に抱いて欲しかった。いつも男性的な振る舞いをする神楽に、この時も男を
演じて欲しかった。
「おい、どうした」
「抱いて……」
「え? わ、私がか?」
 戸惑いながらも、おずおずと私の体に手が回された。そのとたん、急に心の渇きが
激しくなった。無意識のうちに、私も神楽の体に手を回し、ぎゅっと力を込めていた。
「あ……」
 小さく声をあげた神楽の体が、急に力を失ったのがわかった。どうしてなのか、
わからないけど。ともかく、私は自分の心の渇きをいやされたかった。
「神楽……おねがい」
「な、なに……」

361 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:16 ctvImqQz
 もう、止まらなかった。恥ずかしくて言えないはずの言葉が口をつく。
「キスして……」
「え……」
神楽は目をきょろきょろさせながら、自信なさげにつぶやいた。
「そ、そうだよな……。恋人って、こんなだよな……多分。よ、よし。榊の頼みなら
きいてやるよ……」
私は目をつぶって待った。だけど、神楽の唇の感触は、顔の横の方からだった。
「…………」
「ほ、ほら! キ、キスしてやったぞ! これで気はすんだだろ!」
違う。もっと、もっと欲しい。ほっぺただけじゃ、全然足りない……。
「さ、榊?! おい、さか……」
神楽の方が近づいているのかと感じたが、実際は私が神楽に顔を近付けていた。
「ん……」
「ぅ……」
 軽く、わずかな間だけだったけど、確かに私たちは唇を合わせていた。それも、
私の方から。唇から、例えようのない衝撃が私を襲い、体を駆け巡った。どんどん
頭に血が上っていく。体の震えが抑えられない。
「榊……」
「神楽……私は、神楽が欲しいんだ」
神楽は、いやいやをするように首を振る。
「神楽に、もっと、その……してほしいんだ。体……」
「……できねえよ」
「神楽に、もっと触れて欲しい……」
「……できねえよ」
「嫌だったのか? だったら、もうこんなことはしない。あきらめる」
「……ゃじゃない、嫌じゃないんだ、けど、けど」
「だったら……」

362 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:17 ctvImqQz
 不意に神楽が、大声を上げた。
「できねえよ! できねえよ! わかんねー、わたしそんなのわかんねえよ!
わかんない…… ごめん……ごめんな。だって、だって……」
神楽は、キレてしまった。私も、頭に血が上っていたけど、神楽はそれ以上だった
みたいだ。
「お、落ち着いて……」
「ごめん、ごめんよ榊……わかんないよぉ! わたし! わたしはっ、わ……」
 とっさに、私は神楽の口を、キスで塞いでいた。お互いに目を閉じず、しっかり
合わせたままで。恥ずかしさに、心の真ん中まで燃え上がったけれど、それ以上に、
今まで感じたことのない幸福感に私は飲み込まれていた。
「神楽……」
 ゆっくり口を離すと、神楽の瞳どころか、体からすっと力が抜けていってしまう。
「さかき……私ダメ……。なんか、ぼーっとしてきて……」
崩れ落ちる神楽の体を支えながら、私は呆然としていた。神楽に恋してからの、
私の浅ましい、いやらしい想像の中では、神楽は私を自由に弄んでいたのに。現実の
神楽は、私の腕の中でぐったりしている。その光景に軽い失望を感じたが、次の瞬間には、
また別の感情がわき上がってきていた。
「かわいい……」
 腕の中の神楽は、本当にかわいかった。普段の神楽は、凛として魅力的なのに、
今の神楽はまるで抱かれる猫みたいで。そのかわいさに気づいてしまった私の心に、
炎が燃え上がった。
「いいのか?」
「う、うん……」
神楽とは対照的に、私の体には力がこもっていく。

363 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:18 ctvImqQz
「……分からないって、本当に分からないわけじゃないだろう」
「知らないよ……」
「黒沢先生の話、あれだけ聞いて、何も分からないわけは……」
「あ、あれは……。なあ榊」
「ん?」
「榊も、知って……」
私は、恥ずかしさに顔を赤くしながら答えた。
「いつか、こんな日が来るって信じて、いろいろ……」
「……そ、か」
 引きずるようにして、神楽をベッドの上に寝かせた。
「いいのか? 引き返せなくなる……」
「いいって言ってるだろ。あんたとなら……」
「……嬉しい」
涙を流しながら、聞きかじりの知識を使い神楽の胸に触る。ただ、服の上からなで回す
だけだったけれど。
「体目当てとか、そんなんじゃない……」
「わかってるよ、それは。榊、心配するな。そ、そっかあ。あんたが恋人……。
改めて考えたら、悪くねーよなぁ……」
なで回す手を、縦の動きに変えてみる。少し力を入れると、手の動きに合わせて神楽の
胸の形が変わる。
「ど、どう?」
「わかんねえよ、そんなの……。嫌じゃない、けど。なあ、榊。私は、あんたのこと
カッコいいって思って、ちょっと憧れてて」
「私も、神楽はカッコいいと思う。カッコいいよ。でも、今の神楽、なんだか、かわいい」
「へ、変なこと言うな!」

364 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:19 ctvImqQz
私もベッドに身を預け、赤く染まった神楽の頬にキスをした。
「変じゃない。かわいい」
「そんな……。な、なんかあんた、め、目の色変わって……どうしたんだよ?」
「わからない。けれど、もっと神楽が欲しい。もっとかわいいところ見たい」
「やぁっ……! か、かわいくなんかない! なんてこと言うんだよぉ」
 自分でも信じられないぐらい積極的になっている。渇いた心が、もっと、もっとと
私をせかし、じっとしていられない。こんな気分が何で自分にわいてくるんだろう。
「脱がせて、いいかな?」
「ダ、ダメっ!」
 服に手をかけた瞬間、拒絶された。仕方なく、また服の上からさするように胸を
触る。
「……ふっ。……っ」
神楽が息を吐く。
「……どう?」
「わかんねーよ。なんか、別に、大したことないけど、く、くすぐったい感じで……。
そ、そんなこと訊くなぁっ!」
 神楽が、突然がばっと起き上がった。肩で息をしながら、ベッドに身を預けた私を
潤んだ目で見下ろす。
「ご、ごめんな。なんか怖くて……。きょ、今日は、これで終わりにしてくれねーかな」
「ああ……」
残念でしょうがなかったけど、でも、これ以上進むのは、私も怖かった。
「その、体だけじゃなくて、もっとその、神楽に……」
「わかってる、わかってるよ……。榊は、悪いやつじゃねーし。ごめんな」
「いや……」
 私たちはぎこちなく、喋りながら立ち上がった。
「こ、こんど、な」
「あ、ああ……」
 以前来た時と同じように、逃げるように扉に向かった私に、神楽が言った。
「榊……い、嫌ってわけじゃないんだ。けど、ちょっと、な」
「うん……」

365 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:20 ctvImqQz
 その翌日と、翌々日は、神楽とまともに顔を合わせることもできなかった。
気恥ずかしさに耐えられなかったからだ。だが、三日目に否応無しに顔を合わせる
はめになった。また、神楽に呼び出されたのだ。
 三日前と同じように、神楽の部屋に二人で入った。入った瞬間、神楽に胸ぐらを
つかまれた。
「なんなんだよ……。私の顔ももう見たくないってか?!」
「……違う」
「じゃあ、なんでだよ!」
 胸ぐらは放されたが、神楽はまだ怒っている。
「誤解しないでくれ……。好きなのは変わらない。けど、恥ずかしいんだ」
「恥ずかしいって。あんたが、あんたがああしたいって言ったんだろ」
 その通りだ。その通りだけど。
「あ、あの、だから……」
「ああ、もういいよ!」
 神楽が、いきなり制服を脱ぎ始めた。
「ちょっ、神楽」
「だ、抱きたいとか言うなら、好きにしろよ! ほら!」
 ブラに包まれた神楽の胸が、目の前に見える。普段、体育の着替えで見るのとは
まったく心の高まりが違う。だけど。
「ま、待ってくれ、神楽」
「なに?」
 神楽は、顔を真っ赤にしていた。真っ赤な神楽の顔が目に入った瞬間、私の背筋に
ぞぞっと何かが走った。この感覚は、なんなんだろう。
「えっと、気持ちは嬉しい。で、でも……きみが、抱いてくれるんじゃないのか?」
「え?」
不思議な感覚を堪えつつ、私の望みを神楽に伝えると、神楽はきょとんとした。
「……私が、榊を抱くのか?」
「い、いや、ちょっと待って。か、神楽は、やっぱり嫌なの?」
「こう言うことするのは、別に嫌じゃねえって、い、言ってるだろ! なんども
言わすな!」
 大声を上げる神楽につられ、私もどんどん平静を失っていく。

366 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:22 ctvImqQz
「じゃあ、抱いて欲しい。きみと、まともに話さなかったのは謝る。だから……」
「ま、まてよっ! 落ち着こうぜ。私と話してくれなかったのは、なんでなんだ?」
「だ、だから恥ずかしくて、きみにも悪いと思って」
「それは……」
 目の前の神楽の顔。神楽の胸。神楽の匂いが、私の神経を焼いていく。
熱にせかされて、神楽を引き寄せ、抱きしめる。
「あ……」
 腕の中の神楽は、小声を上げるだけだった。
「……神楽、なぜ抱いてくれない」
「だ、だって」
「きみは、いつも私をリードしてくれるじゃないか。それが、嬉しかったのに」
「……そ、それは」
 神楽の感触が心地よい。そのまま、ゆっくりとベッドの方に神楽を抱きながら歩く。
心の中に、これまで感じたことのない衝動がわき起こる。
「……そうだ。いつもリードしてもらってるから、お返しをしないといけないね」
「榊、あんた急に……んっ!」
 偉そうなことを言いながら、どうしていいかよく分からず、つたなく、暴力的に
神楽の唇を奪った。お互いの歯が、かちんと当たったような気がした。その感触も
頭の芯まで電撃が走るように感じられた。
 唇を解放し、ゆっくりと神楽をベッドに腰掛けさせた。
「おかしいよな。内気で、おとなしい私が急にこんなことするのは」
「おかしく……ないと思う、けど」
すがるような神楽の目。ますます衝動が激しくなる。頭の片隅で、理性が警告するけど、
止めることはできなかった。
「そう言ってくれて、嬉しい。大好き、神楽」
 言いながら、神楽のブラをずらした。スカートも脱がせる。その下も。
抵抗も何もなく、神楽はされるままになっている。
「なんでじっとしてるんだ。なんで? いつもみたいに、元気に……」
「ん、んなこと、言われたって……。頭がかーっとなって、よくわかんねーよ……。
ふ、震えちゃって、こんなの、中三の時の大会以来だぞ……。なんで私……」
「私もだ。それは私もだから……」
私の頭の中でも、熱い風が吹き荒れているような気分だった。

367 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:23 ctvImqQz
「そ、それだけじゃねえんだ」
 涙に濡れた顔を上げて、神楽が私を見つめる。
「こんな榊、私知らなかった。ちょっと怖えーけどさ、すげーカッコいいんだ。
だからさ、もっと……もっと」
目を合わせたまま、二人で固まった。
「もっと、私の知らない榊が見たい」
 唇が合った。神楽の熱が伝わってくる。私は、ようやく自信を持つことが出来た。
神楽に、受け入れてもらった。心の底から嬉しいと思った。
「私も、もっと神楽見たい……かわいい」
「か、かわいいなんて言うなぁ!」
 抗議する神楽を組み敷き、そっと胸をなでてみた。そのまま、しばらく何も言えず、
胸をなで回した。
「どう?」
「だから聞くなよぉっ……な、なんか切なくなってくる」
「揉ませて……」
「なっ!」
 驚く神楽を無視して、ゆっくり揉んでみた。しっかりとした筋肉に支えられた
胸の感触が、驚くほど心地よい。揉んでいるこちらの方が変な気分になってきて、
私の胸もとがってうずいてしまっている。
「気持ち、いい?」
「あ、あんたなんか顔怖い……そ、そんな目で見るなよ! んあっ、力入れるな!
へ、へんなふうになるだろうがっ!」
 その言葉を神楽の喜びの言葉と勝手に信じて、神楽の股間に手をやった。
私の手を感じた瞬間、神楽が慌てるのが分かった。その姿ですら、私はかわいいと
思ってしまった。足を開かせた。抵抗はされなかった。下着の上から触る。
「や、やっ、榊そんなとこ……」
「……男の人に触られたことは?」
「そんなことあるはずねえだろおっ! ちょ、くすぐっ……やめっ……」
「……自分では?」
「だからねえって……び、びりびりする! やめろ……やめて……」
「最初は敏感で痛いんだ。でも、少しずつ変わってくる……」

368 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:24 ctvImqQz
 私の与える刺激に、神楽は力なく体をよじる。自分が神楽の初めてで、そして神楽を
支配していることが、嬉しくてたまらない。
「榊っ! な、何でそんなこと知ってんだ」
「神楽を想って、自分で」
顔から火を吹き出しそうに恥ずかしかったが、言わずにはいられなかった。言うことが、
神楽に対する気持ちを示すことのような気がした。
「なっ……」
「ごめん……けど」
 しばらくもぞもぞと股間をなぞり、優しく撫でる。神楽が跳ねるのが分かる。
熱い息がもれる。下着を脱がせても、神楽はされるがままだ。
「ちゃんと気持ち良くなってる。触ったことあるんじゃないか?」
「ち、ちが……あっ……ああっ」
「知ってるだろう。ここのこと。指は入れない……。だから、ここを」
もう一度穴の周りをなぞった。
「あっあああ! やめろぉ」
「触ったことないのか?」
「何であんたそんなに冷静なんだ……! そ、そこはさわるなぁっ!」
ふえっ、ああっ……。ああっ! い、いやっ!」
 気がつくと、私はふっ飛んでいた。神楽の渾身の蹴りを受けていたのだ。
もんどりうって、ベッドから転げ落ちる。
「あ……」
 顔をぐしゃぐしゃにしたベッドの上の神楽と目が合った。そのまま、荒い息を
つきながらしばらく見つめ合う。
「ご、ごめん、榊。私……」
「いいよ。怖かったんだね……」
「ごめん、ごめんな……。私、がさつで……こんなんで……」
 神楽にそっと近づき、肩を抱いてあげた。
「今日は、もうこれで終わりにしよう」
「ごめんな、ごめん……」
「謝らなくていい。また、今度……」
 泣きじゃくりながら何度もこくこくとうなずく神楽に触れながら、私は、幸せを
噛み締めていた。そうだ、焦ることなんかない……。気持ちは、通じてるんだから。

369 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:26 ctvImqQz
 そして今、私の神楽は目の前にいる。
「初めての時、蹴ったのは悪かったよ。でも、あんたがいきなり変わっちゃって
驚いてさぁ。なんか、ヤバイって思っちゃって」
ベッドの上で、私の横に座っていた神楽は、こんどは私に膝枕される格好になっている。
神楽のお気に入りの体勢の一つだ。
「私は、きみがされるがままになってたのにびっくりした」
神楽の頭をひざからそっと降ろし、私も神楽の横に添い寝する。
「……それがダメなんだよなぁ。今でも、なんか、他のことでは頑張ってはり合おうって
思うのに、あれだけはもういいやって思っちゃって。恥ずかしいのもあるけど……
ほら、その目だよ」
「え?」
私は訳が分からず困惑した。
「あんた、自分で分かってないだろ。時々さっきみたいな目になるんだよ。
その目で見られるとさ、なんか逃げられないし、逆らえないんだよ。なんだろう?」
「……そうなのか。でも、さっきの神楽の目の方がその……強い」
「なんだよそりゃ」

370 名前:緒戦 投稿日:04/01/20 00:27 ctvImqQz
 私の目のことは私には分からない。多分、神楽の目のことも神楽には分からない。
そういうものなんだろう。とにかく、愛しい神楽をぎゅっと抱きしめた。
「神楽の目が、たまにかわいい猫みたいになって、背筋がぞくっとして……」
「ふーん。まあいいや」
頭をつかまれ、ぐっと引き寄せられた。神楽の暖かさが、とても気持ちいい。
「いろいろ言うけど、あんたにされるのはやっぱり嬉しいからな。
……人前以外でだぞ」
「ね、ねえ。本当に、触ったことなかったの……」
「知らねえよ……バカ」
「正直に……」
「またその目使いやがって……。……一回だけだよ」
ほほをこすりあわせる。そうすると幸せな感じがどんどん高まる。
「なのにあんなに……気持ち良かったの……?」
「……へへ、あんたが、やらしいからだろが。でも嫌じゃない。幸せだよ」
 神楽の言葉が嬉しくて、神楽をもう一度ぎゅっと抱き直すと、神楽も力強く
抱き返してくれた。気持ちは、通じてるんだ。


おわり


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