
- 891 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 02/07/10 23:52 ID:defw5MJY
- 下校途中、にわか雨に降られ、ともはよみの持っていた折りたたみ傘
の中に入り、肩をくっつけて歩いていた。辺りは雨雲の薄暗さに包ま
れているが歩行に問題はない。
二人は他愛のない話で盛り上がっていた。それでも、二人にとっては
大切なコミュニケーション方法であり、言わなくてもわかっている特
別な気持ちを、会話の中にそれとなく盛り込んでいく事を、二人は楽
しんでいた。周囲に注意が行き渡るわけもなく、二人の会話は弾む。
突然、茂みから暴漢が現れ、二人に襲い掛かった。よみは咄嗟に傘を
落とし、ともをかばうように正面から抱きしめて顔だけ振り向いて、
暴漢を睨みつける。
「お前、ともを傷つけたら許さない」
「よ、よみ……」
よみの凄みの利いた声に、暴漢は一瞬怯む。だが、内ポケットからナ
イフを出すと、叫び声を上げてよみの背中を目がけて刃を突き立てた。
よみは慌てて身を翻すが僅か遅く、ナイフの刃はずぶりとよみの脇腹
に深く突き刺さった。
暴漢はナイフを引き抜いてニヤリと笑うと、雨の中に消えていった。
「え?……なに……よみ?」
ともは状況を理解出来ず、混乱した。よみの両脇に手を入れて、ぐっ
たりしたよみの体を支える。よみは刺された脇腹を押さえて、引き攣
るような激痛に表情を歪めた。
- 892 名前: 名無しさん@ピンキー 投稿日: 02/07/10 23:57 ID:defw5MJY
- 「だ、大丈夫だ……とも……怪我はないか?」
消え入る声でそう言うと、よみは地面に崩れ落ちた。傷口から多量の
血が流れて、その血はともの手も赤く染めた。
「怪我してんのはよみの方じゃん!やだ……よみ……しっかりして!」
ともは、よみの押さえている脇腹に自分の手を重ねて出血を止めよう
とするが雨の力も手伝って、流れ出す血の勢いは止められなかった。
「よかった……ともに……怪我が……なくて……」
よみの顔色が変化していくのを目の当たりにして、ともは救急車を呼
ぶという事が思い付かず、激しいパニックに陥っていた。よみの肩を
揺さ振って、よみが意識を失わないよう泣き叫ぶ。
「嫌だ、よみ、よみ……死んじゃやだっ……いやだぁっ!」
薄れ行く意識の中で、ともの悲痛な叫び声を聞いたよみは、震える手
でともの頬に触れる。そして、精一杯の笑みを浮かべた。
「何、馬鹿な事……言ってんだよ、死ぬわけ……ないだ……ろ」
よみはそう言うと、ともの頬からがっくりと手を落とし、瞼を閉じた。
「うそ……よみ?冗談だよね?死ぬわけないって、たった今言ったばっ
かじゃん!よみ……私を置いていかないで……」
ともの号泣によみは反応を示さなくなり、ともはよみの体をぎゅっと
抱きしめ、ただ泣く事しか出来なくなった。
やがて、血にまみれた二人を洗い流すように雨は強さを増して、とも
の体だけではなく、心までも冷やした。