
- 531 :愛欲 (1) :02/11/01 01:28 ID:PavPDTj/
- 神楽は壁にもたれて座り込み、窓の向こうの夜空をぼんやり眺めて煙草を吸っていた。
夏の身体の汗臭さよりは煙の匂いの方がいい。このTシャツにもジーンズにも染み付いて構うもんか。
ふと思い出し、煙草を口から離して訊いた。「明日、休みだっつったけ」
食器を洗っている榊が、背を向けたまま答える。「ああ。休講が重なって珍しく休みだ」
「なら、ちょっと出かけないか。本棚も買わなきゃな。バイトの給料日ももうすぐだし」言って、神楽は
部屋の隅にきっちりと並べられた医学書類に目をやった。自分だったら5ページで頭が痛くなりそうだ。
「転がり込んだのは私の方だからさ、そのぐらいは出すって」
「そうか、それじゃ甘えさせてもらおうかな……でも、そっちの授業は?」
「サボるさ。……いや、大丈夫だよ」本当は少しピンチだった。
「大丈夫ならいいが……」榊はそれ以上言わず、乾燥機に食器を入れ始めた。
煙草をくわえ直したとき、マヤーが寄ってきた。煙の輪を吐いてやると、興味深そうに目で追う。
「榊、やっぱりだよ。こいつ煙が好きなんだ」
案の定、榊は少し嫌そうな声を出した。
「いい加減に煙草は控えたらどうだ。泳ぎのタイム、伸びてないんだろ?」
痛いところをつかれながらも神楽は反論する。「1日3本、守ってるってば」
「私は一応、栄養管理に気をつけてるんだから無駄にしないでくれよ」
それを言われるとぐうの音も出ない。全く、榊は料理当番のときも完璧にこなしている。
すぐ市販のもので手を抜く神楽とは大違いだった。
――そこで、榊は少し声を小さくして続けた。「……それに、私はその味が嫌いだ」
神楽はマヤーの頭を撫でると、灰皿の中に煙草を押し潰して立ち上がった。「判ったよ」
そして榊の後ろから寄り添うと、長い髪にそっと触りながらつぶやく。「ちゃんと口、洗うさ」
榊の横顔は、静かな表情の中にも僅かに頬を染めて、はにかんでいるようだった。
- 532 :愛欲 (2) :02/11/01 01:29 ID:PavPDTj/
- 神楽は絡ませていた舌をゆっくりと引き抜いて、榊の顎から唾液の糸を指で拭った。
「どうだ?レモン味は好きだったろ」
「……でも、香料でごまかすのはやっぱり嫌だな」榊は上気した声で言った。「神楽の味が一番いい」
「ちぇ、こだわるよな」言いながら、神楽は榊のTシャツを一気にめくり上げる。
ブラジャーはピンク色で、少女趣味的なほどに可愛らしくフリルがあしらわれたアブノーマル物だった。
「おいおい、いつ着けたんだよ……やる気十分だな」
「……昼から。……おかしい、かな……」榊は口元に手を添えて恥じらってみせた。
お互い初めての相手だったわけだが、榊のこの方面への意外な熱心さには神楽も驚かされていた。
いや、物事への生真面目な姿勢がこういう形で発揮されているということなのだろうか。
ともかく、このタイプの物を着けているというなら、今日の榊が求めているものはよく判った。
軽々しく脱がせてはいけない。神楽はブラの下に手を入れ、少しずつずらして揉みしだきながら、
布団の脇の鏡台に姿がよく映るように二人の位置を調整していった。
化粧などほとんどしないからごく低い鏡台で足り、その用途は専らこっちが主になっているのだ。
ズボンを脱がしてみると、パンティもブラとのペア物だった。片手はその中に入れてじっとりと弄ぶ。
とはいえ実の所、指使いはまだまだ未熟だ。それでも甘噛みをし、首筋にそっと舌を這わせ、そして
そんな自分の姿を見せつけさせるうちに、榊は入り込み始めたようだった。我を忘れた吐息が漏れる。
「少し待ってろよ……」優しく囁くと神楽は鏡台に向かい、引き出しから
ピンク色のリボンを2本取り出して戻る。1本を榊の太腿に、もう1本は首に、そっと巻きつける。
「よく似合うよ」そして、榊が一番歓ぶ言葉を。「本当に、可愛いよな……」
榊が身体を倒しぎみにもたれかかってくる。今や榊の頭の方が低い。「本当?私が…?」
「ああ」そして神楽は、今度は意地悪く囁いてやる。
「けど、大学でも『カッコいい人』で通ってんだろ?見せられないよな、こんな姿……」
「神楽だけに見せるんだよ……」榊がうっとりと言った。
神楽は榊の肩を抱いて、頬をすり寄せ、口づけをした。
- 533 :愛欲 (3) :02/11/01 01:30 ID:PavPDTj/
- 汗の匂いと淫らな息遣いが絡みあう。もはやリボンだけ残して全てをかなぐり捨て、座位の二人は
ディルドーで繋がっていた。今日の主導は神楽で、榊は背を丸めて神楽の胸の中を舌でむさぼっている。
神楽は腰を動かしながら、その頭を顎で押さえ込んで髪を撫で続けていた。
榊の頭を上から見られるようになったのは、この関係になってからだ。
この体位になるたび、神楽は密かに思い出すことがあった――榊を見上げ続けたあの頃。
私を平然と圧倒した天才。そしてなかなか打ち解けない心を表しながら、静かに見下ろすあの目。
けれども私は、この人をずっと追った。嫉妬し、同時に尊敬して――やや強引に、少しずつ心を開かせた。
その榊は、今や自分の下にいて甘えた泣き声をあげている。「神楽ぁ…んッ……私…わたし……」
「ああ、可愛いさ!」神楽は思いきり嗜虐的に突き上げた。息を呑んでしがみつく榊を
裏切るように激しく倒して布団に押し付け、涙を浮かべる顔を見ながら凌辱的に突きまくった。
(榊!ズタズタに犯してやる……)だが、思うそばから既に強烈な快感の波が訪れかけていた。
腰の動きが止まりがちになる。声が漏れてしまう。「ん…く、くそっ……あ…榊?だめ…あ、あぁッ!」
突然、今度は自分が突かれ始めていた。そして榊の腕が伸び、神楽の頭を捕らえて引き寄せる。
塞がれた唇を割って、榊の舌が入りこむ。明らかに、榊はここから攻めに転じようとしていた。
(畜生、今日は…負けるもんか!)神楽は榊の舌を強く噛み止め、一方的にしゃぶり回す。
抵抗が弱まったと見るや、キスを解いて榊の耳をくわえ込みにかかった。
そして榊の乳房を自分のそれで愛撫し、卑猥な吐息を耳に注ぎかけるうち、
ついに榊は全身の力を抜いて屈服した。その少し異様な息遣いから、榊も達しかけているのが判る。
神楽は最後の気力を振り絞って、激しい突きを再開した。多分、このまま二人ともに果てるのだろう。
けれど私の方が少しだけ先に……貫き通せる……!
「あ…ああ、ん…榊、さかっ……あ…愛してるッ……!」「かぐらッ!!」
二人の手が、探り合い、離れ、そしてまた求め合って、一つに握り合わされた。
- 534 :愛欲 (4) :02/11/01 01:31 ID:PavPDTj/
- 目を覚ますと夜中だった。暗闇の中で、榊の身体の輪郭が僅かな夜光に浮かんでいる。
神楽はその胸に顔をうずめて抱かれていた。いつもの頭の高さだ。そして榊の肩幅の広さも実感できる。
起こさないようにそっと腕を外し、神楽は抜け出した。煙草が吸いたい。4本目だが……。
脱ぎ捨てられたTシャツを手探りでひっつかんで着、テーブルの上から煙草を探し出して火を点けた。
(今回だけだ)自分に言い訳しながら窓を開け、身を乗り出して煙を吐く。しかしどこか爽快感に欠けた。
判っている。こんな自分の甘さが後ろめたいからだ。(私は段々、自堕落になってるな……)
タイムも伸びず。榊のように確たる展望があるわけでもなく。結局自分も、このまま何となく…の口か?
二度目の煙を吐いたとき、さっきからの違和感の原因を確信した。このTシャツは榊のだ。
「……やっぱ、でけえな」神楽はひとり苦笑した。
榊にとっては厭わしいだけだった身長。私にとっては喉から手が出るほど欲しかった身長。
それは運命の気まぐれさと、才能の不平等の象徴だった。
いま自分が愛している相手は、自分に挫折を教えた相手でもある。
私の自堕落さに、こいつは責任の一端ぐらいは持っているのではないか?
――いつしかそんな卑しい考えにまで行き着いた自分に、神楽ははっとして頭を振った。
そして、自分達の関係に思いを巡らす。うっすらとは考えていた、ある疑い――
(私はこいつと寝ることで、どこか挫折と馴れ合っているのかもしれない……)
「神楽……」突然の呼び声に神楽は振り返った。だが、それは寝言だった。
榊の夢の中で、自分がどんな風に現れているのかは判らない。
ただ確かなのは、自分を想ってくれるその声の、掛け値ない純粋さ。
神楽は口から煙草を引き抜くと、少し見つめ、そして外壁で揉み消して投げ捨てた。
――判ったよ、榊。凡才でしかないなら、私はせめておまえとの愛だけには誠実でありたい。
明日はやっぱり一緒に行けないけど、勘弁な――。
神楽は最後の煙の輪を、月に向けて吐きかけた。
(了)