656 名前: LOVERS 投稿日: 03/06/15 12:31 ID:Z5/biMhz
「なあ、滝野。今日の放課後、屋上に来てくれないか?」
俺の呼びかけに返事はすぐには来ず、ただ驚いた顔だけがそこにあった。まあ、当然だろうな。
「まあ、この超絶美少女智ちゃんにそういう想いを抱いてしまうのは当然のことなんだけどな」
「そんなボケはいらん」
俺はすぐにツッコミを返した。水原がよくやるように。
俺は中学生のときこの滝野と水原に会った。暴走女とその保護者。ボケの天才とツッコミの天才。
この二人は当時から、おそらくは小学生の頃から有名なコンビだった。
当人は知らないだろうが実はこの二人、男子の間では美少女としても人気が高かった。
滝野と水原、どっち派? なんて質問がよく飛び交ったが、
俺はそれに答えることは一度もなかった。なぜなら……
「そういう話とはちょっと違う。それと水原と二人で来て欲しいんだ。水原にはもう話してある。
一応いっておくが真剣な話なんだ」
「え、それどういうこと?」
「いいから来いよ。滝野と水原の二人だけだぞ」
俺はそれだけ答えて、滝野から離れていった。



657 名前: LOVERS 投稿日: 03/06/15 12:32 ID:Z5/biMhz
「で、どういうことなんだよ。こんなとこに呼び出して」
屋上で待っていた俺にやってきた水原が聞いてくる。滝野も一緒だ。
「放課後で屋上」といったことにたいした意味はない。ただ、屋上なら誰もいないし、
昼休みはともかく放課後なら誰も来ないはずだし、
これからする話で気まずくなっても今日は逃げられる。
水原が求めている答えはそんなことではないだろうから、これは言わずにおく。
しかし、これからする話には度胸が必要だった。ここに呼び出すのも同じことだったが。
放課後に人のいないところに女の子を呼び出すとなれば、普通は告白だと思うだろう。
実際滝野もそう勘違いした。いや、ただの冗談だったのかもしれないけど。
しかし、今回はそういう話とは「ちょっと」違う。呼び出したのは二人である。
しかしこのままでも埒があかない。俺は意を決して口を開き、言葉を発した。
「なあ、お前らさあ」
少し間があく。なんて聞けばいいんだろう。とりあえず……
「お前らって、どういう関係なんだ?」

「どういうって……」
「まあ、幼馴染みの腐れ縁ってとこかな」
水原は無難な答えを返した。何度もこんなふうに答えているのだろうか。でも……
「本当にそれだけなのか?」
我ながら人の悪い質問だ。これから切り出す話を思うと。
「それだけって……他に何かあるっていうのか?」
二人はうろたえたような表情だ。
もういい。これ以上引っ張ってもしょうがない。ここに呼び出した以上、この話をするしかないんだ。
「俺さ、見ちゃったんだよ。お前らが……その……してるとこ」



658 名前: LOVERS 投稿日: 03/06/15 12:33 ID:Z5/biMhz
「な、なんだよ、してるって」
「とぼけんなよ! なら具体的に言ってやろうか! お前らが昨日の放課後の教室でふたりきりでしてたこと」
強い口調になってしまった。たぶん二人を見る表情もきつい。
何やってんだ、俺は。そんなつもりじゃなかったのに。
「……悪い、みちゃったんだよ。お前らの……」
罰がわるくなって、二人から目をそらし、小さい声になる。
俺があのとき二人の行為に見入ってしまったことは言わずにおいた。やっぱりこれは卑怯なことなのかな。
滝野も水原も、何も言えずに立ち尽くしていた。
今二人はどんなことを考えているんだろう? やっぱり俺の目的が何か、だろうか?
脅し? 強請り? そのためにどんな要求を? といったところだろうか。
俺はこの二人にどう思われているだろう?
だが、そんなことは俺には関係なかった。俺はその「目的」を口にした。



659 名前: LOVERS 投稿日: 03/06/15 12:34 ID:Z5/biMhz
「滝野、水原、お前らはさ、互いのことを好きなんだよな?」
二人を見据えながた問う。やっぱり二人は何も反応できない。
さっきから俺が一方的にまくしたてているだけだ。でも、いや、だからこそ俺は先を続けた。
「お前らは身近にいる相手を衝動的に求めてしまった、なんてことじゃなくて、
愛し合っているんだよな? 互いのことが一番大事なんだよな?
……頼む、偽りのない気持ちで答えて欲しい」
これが俺の「要求」。どれくらいの時がたったのかわからなかったが、
滝野は俺をしっかりと見返して言った。
「うん、私はよみのことが好き。世界で一番ね」
その言葉のあと、水原も続いた。
「……ああ、私もともを愛している」
「うん、そうだよね、よみ!」
「こ、こら、抱きつくな!」
……こらこら、ノロケろとは言ってないぞ。ま、いっか。二人を見ていて顔がほころんできた。
「そうか、ならよかった」
二人が真剣な顔に戻って俺を見る。対して俺は笑顔のまま言った。
「いや、俺が呼び出した理由はそれだけだ。答えが聞けてよかったよ。
このことは誰にも言わないから安心しろよ。何に誓ってもいい」



660 名前: LOVERS 投稿日: 03/06/15 12:35 ID:Z5/biMhz
結局このことに関しては口約束しかできなかった。
俺に秘密を守らせる枷は二人の行為を見てしまったという事実。
「わざわざ呼び出して悪かったな。答えてくれてありがとう」
俺は一足早くここを去ることにした。
「二人とも仲良くな。……それと……場所は選べよ」
俺は二人に背を向けていたので二人がどんなリアクションをしたかはわからない。
去った後、屋上から遠ざからないうちに、二人の声が聞こえてきた。
「よみが素直に愛してるって言ってくれたの初めてだよね!」
「あ、あれは言えって強要されたようなものだから……」
「あーあ、照れちゃって、かわいいなあ、もう!」
やっぱノロケてる。……これでいいんだ。

俺は二人の秘密を知ってしまったが、結局俺は自分の秘密を二人に教えないままだった。
俺の秘密、それは俺が滝野と水原、二人とも好きだということ。
全く違うタイプの二人の女の子を同時に好きになってしまったという事実。
「好き」「愛してる」……どうして俺はこの言葉を目の前の女性のどちらかに向けられなかったのだろう。
そうすればこんな失恋は避けられたかもしれないのに。
……たぶん、これは「罰」。二人の女の子を同時に好きになり、どちらかに決められなかった「罪」に対する「罰」。
でも、不思議と悲しい気持ちにはならなかった。
きっとそれは、好きになった二人ともが幸せになれる結末だったから。
二人にはこれから苦難の道があるかもしれない。そのときはきっと力になってやろう。
それが俺の「贖罪」だから。
二人とも幸せになってくれよ。それが俺の偽りのない気持ちだから。

(おしまい)




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