
- 346 :344じゃないが 題名なし :02/10/18 08:42 ID:cSCNJfGR
- 放課後の図書室
既に生徒はいない時間、図書委員も残った生徒達に鍵を渡して下校している
季節は冬、辺りは暗く、校内も電気をつけなければ10メートル先は闇の世界だ。
そんな中、まだ図書室に残る二つの影
「どこ…いったんやろ」
「大阪さん、もしかしたらあっちの方かも知れませんよー」
高校生活3年目の冬、大切な受験勉強の時間を割いて、大阪は探し物をしていた。
探し物といっても決して参考書や資料ではない
「ホントに…どこいったんやろ…」
大阪は床に座り込んだ、微かに泣いているような声も聞こえる
ちよはそっと大阪の横に座り、優しい笑顔で話しかけた。
「大阪さん、探し物ってなんなんですか?」
「大切なものや…あれなかったら私…あかんねん……」
崩れて泣き出す大阪を見て、ちよは暫く黙っていたが、やがて子供をあやすかのように大阪の頭を撫で始めた。
「大丈夫ですよ、きっと見つかりますから」
すると、大阪は「ちよちゃーんっ」と泣き叫びながらちよに抱きついた。
その勢いで二人は倒れ込んでしまう
でも二人はそんな事など気にも止めない
大阪さんはきっとその大切なものがあるから、いつも笑っていられた。
どんな辛い事があってもいつも笑っていられた。
いつも笑っているという事はとても辛い、よくわかる…
だから、今度は私が笑って、大阪さんの笑顔を取り戻さなきゃ
ちよはそう思い、もらい泣きしそうな自分の頬をパンッと叩いた。
しかし、一度こみ上げた涙は止まる事なく、ちよの頬を濡らしてしまう
暗い図書室に二人分の泣き声が響く
ちよは泣きながらも大阪を強く抱きしめ、慰め続けた。
「ちよちゃん…なんで泣いとるのん?…」
大阪も泣きながらも必死にちよを抱きしめていた。
- 347 :344じゃないが 題名なし :02/10/18 08:43 ID:cSCNJfGR
- 「大阪さん…一人で泣いたらダメですよ、一緒に泣きましょう…ひっく」
「私…もうだいじょうぶや」
大阪は溢れる涙をふいて、しゃっくりまじりの声で話し出した。
「ちよちゃんがいてくれたら…もう、だいじょうぶや」
涙混じりの声であったが、大阪はちよを安心させようと必死に話した。
「せやから…ずっと一緒にいてほしいねん…」
大阪はちよの存在を確認するように、再度強く抱きしめた。
「私はここにいますよ…大阪さん」
「ちゃう!ちゃうねん!!……アメリカ行ったら…いやゃ…」
大阪の声が図書室中に響いた。
その声を聞いて、ちよは更に泣き出してしまう
自分を必要としている人が泣いている、自分の大切な友達が泣いている
まだ小さいのちよにはその事実はあまりにも苦しいものだった。
自分のせいで、という罪悪感もあった。
なのに、自分はどうしようも出来ない、無情な現実はちよを締め付けた。
「ちよちゃん……」
ちよは必死に考えた
どうすれば大阪の笑顔を取り戻せるか、ちよは天才の頭脳で必死に考えた。
答えはすぐに出てきた。
留学をやめれば良い
それはちよにとって人生を左右する問題だった。
だが、ちよは迷うことなく決断した。
あれほどアメリカに行く事を賛成していた大阪が、初めて弱音を、アメリカに行くなと言った。
大阪の気持ちを知った天才少女ちよにとって、この問題は簡単過ぎた。
「私…留学はやめます…私もみんなと…大阪さんと離れたくない…です……」
その言葉を聞いた大阪は大声で泣いた。
安心感か、罪悪感か、大阪には自分の感情すら理解出来ない
だが、もうその心に不安という文字はなかった…。
- 348 :344じゃないが 題名なし :02/10/18 08:43 ID:cSCNJfGR
- 「大阪さん、探し物ってなんだったんですか?」
「ずっと前…ちよちゃんがくれたキーホルダーやで
あれ見ると…笑顔になれるんや」
- 474 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:39 ID:BJAamrDK
- 夏の日差しが地面を焦がす。
普段は心地よいそよ風もこの季節では鬱陶しい
まだ朝7時30分だというのに、太陽光は昼と間違えそうなくらい高い場所から降り注いでいた。
大阪はいつも通りの時間にいつも通りのペースでいつも通りの道を歩く
「あ!大阪ーっ!」
「んー?」
智と大阪は大学に行く途中の道で、いつも通りに出会った。
「おはよっ!なんか元気ないぞー?」
「え?私いつもと同じやで~」
二人はいつも通りの道を歩く、その道は高校の時の通学路とあまり変わらない
変わった事と言えば、アスファルトからこみ上げてくる熱気と、制服
そして少し成長した自分自身の胸だけだった。
それだけのはずだった…。
授業が始まった。
授業といっても大阪の頭ではあまりついていけない
それでも、言われた事をノートに書き写し、理解しようとする
決して特別楽しいものではなかった。
智は別の授業でいつも離れている
ただただノートに書き写すだけの時間、会話も何もない
周りからは真面目な少女として人気は高かった。
だが、本人はそんな事どうでも良かった。
まるで古いオモチャのように、同じ作業を繰り返すだけ
- 475 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:39 ID:BJAamrDK
- 下校の時は智と一緒だった。
高校の時と何も変わらない会話、その時だけが昔を思い出せる時間だった。
「じゃあ、また明日なー」
「ほな~」
しかし、その時間もすぐ過ぎてしまう
大阪は一人暮らしを始めた。
慣れないバイトをしながらアパートを借りている
家に帰ると、テレビを見て、慣れない自炊をして、風呂に入って、布団に潜り込む
それだけだった。
大阪は大学に入り、ちよ達と別れてから、まるで今までの分を取り戻すかのように成長し始めた。
この前久しぶりに会ったよみがメガネをずりおとして吃驚するほど、大阪は『しっかり』してきたのだ。
学力が上がったわけではない、普通に頑張っているだけだった。
ボケも飛ばす事もなくなり、まさによくある大学生になった。
本人も自覚しているようで、智には毎日のように「私しっかりしとるで~」と聞かせている
- 476 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:40 ID:BJAamrDK
- 風呂からあがった大阪は、机の中から去年のカレンダーを取りだした。
そして、誰かに言い聞かせるように呟き始めた。
「また…海いこな…」
大阪はカレンダーを元に場所にしまうと、窓を開けた。
外から入り込む風は、夏の香りのする、少し冷たい風だった。
大阪は窓の前にちょこんと座り込んで、その風に髪をさらす
「ちよちゃん…私、一人でもしっかりしとるで…」
あの時のちよとの約束はかなえられなかった。
家の都合もあり、ちよは結局留学した。
大阪は「だいじょうぶやで!ちゃんと行かなあかんでー!」とちよの背中を強く押した。
ちよは不安が残るが、自分の都合がきくわけではなく、そのままアメリカに行った。
その時、ちよは大阪に小さなペンダントをプレゼントした。
「私の気持ちを大阪さんに預けていきますね、大切にしてくださいね」
そのペンダントは今も大阪の首にかけてある
銀色をしたペンダントは手に取ると少し重く、ハートの形をしていてとても可愛い
大阪は毎晩そのペンダントを手にとって眠る
そうする事で自分を救っていた。
これも、やはり自覚しているようで
大阪本人も自分も気持ちを良く理解していた。
それ故、寂しさはどんどん大きくなる
それでも大阪は泣かなかった、泣きたいとは思わなかった。
泣きそうになってもペンダントを握る事で笑顔になれた。
「早う寝な…」
大阪はいつも通りペンダントを握ると、布団に潜り込んだ。
- 477 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:40 ID:BJAamrDK
- その日の智の朝はトーストの匂いだった。
顔の数センチ先にはトーストがある、智は目を開けなくともその匂いと直感で確認した。
眠気は一瞬にして遠のき、手はまさに神の早さでそれを掴む
だが、智の手はそれを掴む事は出来なかった。
何度も手を振り回すが、風を斬るだけでそれに触れる事はなかった。
智はベッドから飛び上がり、それを確認しようとまだ重い瞼をこじ開ける
そこにはトーストを手に持ち、魚でも釣るかのような仕草のよみがいた。
「やっと起きたか」
「……あー………なんであんたがいんの?」
寝ぼけた智には状況を把握する事は大変難しい
例えるなら小学生に方程式をやらせるくらいだろうか
「お前なぁ…昨日電話で朝飯作れって言ったのはお前だろ?覚えてないのか?」
暫くの沈黙、智は必死に方程式を解こうとしていた。
そして答えは出た。
「あ、あんた盗み始めたの?」
後少しのところで、智は単純計算を間違えた。
無論、ここでは体罰が基本である
ゴンッ!
「いってぇぇ!!!」
よみのチョップが智の額に決まり、鈍器で強打したような鈍い音が部屋に広がった。
「朝飯を作ってやったのに盗みとはなんだ!盗みとは!」
「だって鍵ないのに入ってるし」
「…開いてたぞ」
再び暫くの沈黙
そして智はお決まりの笑顔で「まっいいじゃん」と答えた。
本人は特に気にしていないようだが、昔からずっと智の面倒を見ているよみにとってはなかなか深刻な問題だった。
だが、よみは慣れた感じに苦笑いすると、軽く説教をして、智と朝食をとった。
- 478 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:41 ID:BJAamrDK
- その日の登校はよみが来てくれたせいか、いつもより少し早めだ。
よみも自分の大学に行く為、智と一緒に出たが、生憎方向は逆だった。
今日も鬱陶しい夏の日差しが痛いくらい良く晴れている
今年はまだ台風という文字をテレビで拝む事はなかった。
雨が降るどころか、焼き付ける太陽光は各地のダムを干上がらせる
世間ではかなり深刻な問題として取り上げられている
しかし、智はそんな事なんぞ気にも止めていない、気になるのはこの暑さだけであろう
暑さにうなだれながら通学路を歩いていると、いつも大阪と会う場所まで来ていた。
いつもならここでばったり会うのだが、今日は時間が少し早い為か、大阪とは遭遇しなかった。
智は結局大阪を待った。
最近の大阪はしっかりし過ぎている
それに真剣な大阪とか笑ってない大阪とか好きじゃない
ボンクラーズ脱退だな、こりゃ
と、智が一人で考えていると、いつもと同じ時間に大阪が来た。
「あ、待っててくれたん~?」
智を見つけるなり走り出したと思ったら豪快に転ぶ大阪
やっと昔と変わらない大阪を見れて智はホッとした。
「よし、いくかーっ!」
- 479 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:41 ID:BJAamrDK
- 夏も半ば、大阪達の大学は休みに入り、無論他の連中の大学も休みに入った。
そして、今度海に行こうという話が出た。
ゆかり達も来るとの事で、例年と同じようにちよの別荘に行く事になった。
「海!海!海ぃぃぃぃ!!!」
「騒ぐなバカ智」
一行はちよの別荘に着いた。
言うまでもないが、今年も車は2台、被害者は榊とかおりん、そして智だ。
別荘に入ると、大体の者は座り込みくつろぐが、智と神楽と例年通り、即海に入ろうとしている
「懐かしいで…ホンマ…」
大阪の心境を高校の時から理解していたよみは、場を盛り上げようと必死にスケジュールを組んでいた。
夏祭りはないものの、昼は海で遊び、夜は花火、そして飲み会という形だ。
よみ自身も数ヶ月ぶりの再会を楽しもうとしていた。
だが、一人分かけてしまった所はどうにもならない、それは皆思っていた事だろう
「よーし!海いくぞー!」
あの智でさえ必死に盛り上げようとしているのかも知れない、ならば私も頑張らねば
よみはそう決心すると、智の後に続いた。
- 480 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:42 ID:BJAamrDK
- 海は去年と何一つ変わっていなかった。
唯一変化があるとすれば、この日差しだろうか
皆が騒いでる中、大阪は一人浮き輪を装備して浮かんでいた。
少し離れたところから見ていた…。
波に流され、行ったり来たりしているのを楽しみながらも、大阪は皆が楽しむ姿をただ見ていた。
「……あかんな…」
大阪の声に答えたのか、波も大阪の背を強く支えるようにして大阪を乗せ、浜辺に向かう
ズザーーーーー
「ただいまや~」
浜辺に滑り込んだ大阪は砂をはらいながら立ち上がった。
「大阪!ビーチバレーやるぞー!ボンクラーズ再結成だー!」
「なにぃ!?3対1は卑怯だぞ!」
「あ、まって~」
- 481 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:42 ID:BJAamrDK
- 一行は海で一通り遊ぶと、花火をして別荘に戻ってきた。
もう夜、これから始まる飲み会に皆期待している
飲み会といっても飲酒ではなく、普通の料理を囲んで夜が更けるまで騒ごうというものだ。
暫くすると、大きいテーブルに料理が盛られ始める
時々智が料理に手を出そうとするが、それを予知してよみが止めに入る
そんな姿を大阪はただじっと見ていた。
なんか…私ちゃうで…
大阪は胸元にあるペンダントを強く握った。
そして壁に背を向け、一人屈み込む
そんな姿を見て心配したのか、ゆかりが寄ってきて、大阪の横に座った。
「あんたもあいつらと騒いでいいのよー?」
大阪はゆかりの呼び掛けに答えようとしたが、言葉が出ない
喋ろうとしても口がぱくぱく動くだけで、肝心の声は出なかった。
「ま、あんたの気持ちもわからなくないけどね~
でもあれよ、心は繋がってるってやつ~?」
尚も大阪は必死に答えようとするが、放心状態にでもなってしまったかのように声が出てこない
急に絶望感に包まれた大阪は静かに泣き出した。
誰にも聞こえないように、必死に声を出さないように泣いた。
ゆかりは気付かないふりをして、大阪の肩に手をまわした。
「いいか大阪、あんたがそうやって想い続ければ、あんたも想われ続ける
だから辛くても身体壊さない程度に頑張る事ね、別に泣いたっていいんだから
いっとくけど、ちよすけだってあんたと同じなんだからねー?」
そう言うと、ゆかりはにゃもにちょっかいをだしにいった。
大阪は立ち上がり、誰にも気付かれないように別荘を出た。
- 482 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:44 ID:BJAamrDK
- 夜の海は綺麗だった。
星の光が反射して、海全体が光っているかのような錯覚すら覚える
そんな中、大阪は涙を流しながら海岸を歩く
その目は夢でも見ているかのように、何もとらえてはいなかった。
大阪は普通の少女だった。
どこにでもいる一人の人間だった。
決して強くはない、一度傷つけば壊れだしてしまうほど
いつも笑っていたのは楽しいからではない、悲しさを隠す為
しかし、もうちよは笑顔を返してくれない、その現実だけが大阪の心に突き刺さる
決して強くはない…
そんな大阪が残酷な現実に耐えられるわけがなかった。
「星がきれいや…」
一歩、一歩と海の方へ向かう大阪
その後ろ姿は星に照らされ、くっきりと浮き上がっていた。
まるで今にも飛んでいってしまいそうなくらい、力なく大阪は歩く
- 483 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:45 ID:BJAamrDK
- 「大阪さんっ!!」
「えっ…」
大阪が振り返ると、そこには二つのお下げの少女がいた。
手には少女の身長くらいある大きなカバン、そして胸元には大阪のと同じペンダント
「ちよちゃん…なん?」
「…はい…」
その声を聞くと、大阪はちよに向かって走り出す
途中で何度も砂に足を取られ、転びそうになった。
そして、やっとちよの目の前に来ると、大阪はちよ目掛けて抱きついた。
二人はあの時のように倒れてしまう
「ちよちゃん!ちよちゃんなんやなぁーっ!」
大阪は何度も何度もその名前を呼んではその小さい身体を強く抱きしめた。
「遅く…なっちゃいました」
ちよも大阪を抱き返し、優しく頭を撫でてやった。
「ちよちゃん…おかえりや…」
「…ただいまですっ」
「おーい!飲み会始めるぞー!」
「智ちゃんの声や…」
「早くいきましょー」
二人は手を握り、別荘に向かって走り出す。
もう二度と手を離さないように、強く強く握って…
- 484 :344じゃないが 「君のいない時間」 :02/10/28 01:46 ID:BJAamrDK
- 「ちよちゃん…私間違うてた…どんな時でもちよちゃんと一緒や
せやから、もう無理せえへん…」
「そうですよ…ずっと一緒ですっ」
大阪は昔と何一つ変わらない笑顔
それを見て微笑むちよ
笑顔、それはみんなの心を繋げる少女たちの魔法
どんなに変化しようと、笑顔になれる過去がある、笑顔を期待する未来がある
辛くても、どんなに泣いても、心が壊れようと
笑顔を思い出せる、二人の誓い
みんな覚えている、だから
『みんな!…心配かけてごめんや…せやけど、私帰ってきたで…』
笑顔を胸に
『おかえりっ』
『ただいまや』