
- 826 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/21 20:54 ID:hVrzJmVv
- 愛なんてウソっぱちだと思っていた。恋なんて永遠にしないと思っていた。
自分の存在に自信が無い俺が、おこがましいと思っていた。
俺が初めて彼女の事に気づいたのはもうずいぶん前、とても雨の強い日だった。
数少ない友人である井上と一緒に部活から帰る途中だった俺は、偶然、道端に置い
てあった段ボール箱の前でかがんでいる、彼女を見たのだった。
「あれ?あそこにいるのって確か3組の女子だったよな?傘もささずになにしてんだ?」
井上は彼女の顔を知っていたようだったが、あまり他人に関心を持たない俺が知っている
わけがなかった。
「さぁ、・・・俺のクラスにいたか、あんな子。」
「えぇ!ウソだろ?結構有名だぜ、あの子。暗そうだけどけっこー美人な子がいるって。」
「そうなのか。あまり興味ないな。」
俺が井上に先立って歩き始めると、あわてて追いつきながらも色々話してくる。
「意外だなぁ。なに、おまえ女の子に興味ないわけ?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。」
「ふ~ん、まぁいいや。俺も別にネクラな子には興味ないし。」
本当は彼女の行っていた行動に対して好奇心を持っていたのだが、あえてそれは口に出さな
かった。大方捨てられた猫でも眺めていたのであろうが・・・。とにかくそれが、俺が彼女
の存在を認めた最初の時だった。そしてそれからだった。俺が彼女を何となく意識するよう
になったのは。
- 831 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/21 21:42 ID:hVrzJmVv
- 学校での彼女はいつも物静かだった。時折みる親しそうな友人達との会話のなかでも、あまり
笑顔を見せず、よく一緒にいる美浜とは対照的と言えた。出席表から、彼女の名前を知ったのも
このころだった。彼女の名前は榊といった。
普段は静かな彼女も、体育の時間はその運動力から注目を浴びる存在だった。陸上部顔負けの
脚力には、遠目から見ても驚きだった。聞けば運動会では、ずいぶん活躍したそうだ。
とはいえ俺が初めて抱いた異性への好奇心も、別段恋愛などといったものでもなく、何となく
観察してみたかっただけでそれ以上の事でもなかった。それより俺は毎日の剣道部での練習のほう
が面白く、日々稽古に打ち込んでいた。
俺の生活は家に帰れば特に熱中するような趣味も無く、日課のロードワークと剣道の型練習だけの
単調な毎日だった。勝手に出て行った母親に、毎日恨み言を言うだけだった親父も3年前に亡くなり、
家は俺一人だけが住む空間になっていた。最も落ち着く空間ではあったが、幼い頃から暖かみを感じた
事などないそこは、今はあくまで一人暮らしのひっそりと静かな雰囲気があるだけだった。
毎日朝起きて学校に行き、放課後から夜まで稽古をして帰る。それの繰り返しの俺の日々のなかで、
榊を観察している行動は、ある意味滑稽とも言えるのかもしれない。
- 832 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/21 22:12 ID:hVrzJmVv
- しかしそんな単調な毎日を破るような出来事が起こった。
高校に入って2度目の夏、剣道の道具を買い込む目的で街に出ていた俺と井上は、当初の
目的を果たした後、特にすることもなく街をぶらついていた。もとより家に帰った所でする
こととて無い俺は、井上につきあってあちこち歩き回った方が楽しかったのだ。学校でのく
だらない馬鹿話や剣道や他の格闘技の話をしながら過ごす親友との時間は俺にとって何より
貴重だったが、いまいち井上が熱心に話すような恋愛話には乗り気にはなれず、心の端で軽
薄に感じていた。
夜も11時にさしかかり、大通りを歩く人並みから子供等が消えた頃、自動販売機で買っ
たコーヒーを二人で飲んでいた俺は道路の向かい側に榊の姿を見つけた。思わずいつもの観
察をと考えてしまったとき、様子がおかしいことに気がついた。
いつも一緒にいる5人のうち、春日と滝野と神楽(名前はあとで知ったのだが)が一緒に
いるのはわかったが、その周りに居る7,8人の連中が見慣れない男達だったからだった。
人通りが少なく、明かりもあまり明るくないここでナンパとはずいぶん酔狂な連中だと思っ
ていたが、そのあまりにも驕奢で軽薄な仕草に遠目ながら不快感を抱いた。
しかしあんな連中に引っかかるタイプでもないと考え、コーヒーを捨てると井上を促して
その場を去った。そして数百メートル離れた地点で滝野の悲鳴を聞いたのだった。
その瞬間俺の頭に浮かんだのは榊で、俺は今きた道を全力で駆け戻った。そして見た。路
地裏に彼女らを連れ去ろうとする先ほどの連中を。
- 833 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/21 22:48 ID:hVrzJmVv
- 今まさに路地裏に連れ込まれようとする滝野の顔は逃げようとして殴られたのか
左ほおが赤く、鼻血も出していた。そしてその滝野向こう、体を後から羽交い締め
にされている榊とその右手にナイフを持ちつつ榊の体を今まさに弄ばんとする男を
見たとき、俺の中の凶暴でどす黒い物が一気に吹き出したように感じた。
昼間に買った黒樫の木刀を袋ごと滝野の髪の毛をつかんでいる男に投げつけ、そ
のままその屑共に殴りかかっていった。
空を舞った木刀はそのまま男の顔面に吸い込まれ、男は鈍い音を立てて崩れた。
思わぬ乱入者に驚愕したそいつ等は慌てふためいたらしく、女の子達を楯にすれば
よいものを、各々の獲物を持って打ちかかってきた。
さりとて俺も井上も剣道と共に空手の段を有しており、素手とはいえおくれを取
ることはなく、そのまま多勢を相手に乱闘となった。
乱闘は終始二人が主導のペースですすみ、途中から使い始めた木刀の威力も合わ
さって、ものの数分で8人全員をたたき伏せた。もとより手加減する気とて無かっ
たが、どいつもこいつも骨を数本は折られただろう。特に榊の体に触れていた男は
アゴに木刀の一撃をくれてやったので、口から血を吐いて失神していた。
しかしむろんナイフ相手にケガをしないわけもなく、俺は右腕に、井上は左足と
右の手のひらに切り傷を負ってしまった。
だがそんなことよりも彼女らの方が心配になった、とくにナイフをつきつけられ
れていた、榊のことが。
- 834 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/21 23:18 ID:hVrzJmVv
- 翌日、何事もなかったかのように俺は学校に出て行った。
昨夜襲われた彼女らには幸い大してケガはなく、滝野と神楽が顔に打撲を負い、榊が上着を破られ
ただけであった。不思議と春日は特にたいしたこともされず、無事だったが、しかし一番精神的なショ
ックを受けたのも春日だった。
あのあと俺達は彼女らを家まで送っていき、俺の家で二人のケガの手当をしたのだった。彼女らの
希望で、あの男達は警察には突き出さないことにした。今回の出来事でずいぶん懲りたことだろう。
それにあそこまでやると今度は我々が過剰防衛になるところでもあった。
井上が帰ったあと、昨日の夜はなかなか寝付けなかった。初めて人をあそこまで痛めつけたことで、
気が高ぶっていたのもあったが、なによりも男達に対する憎悪が再び頭をもたげてきたからだ。
あの時榊は背中を羽交い締めにされ、男に体を触られていたが、その男の事を想像することで、心の
そこからの怒りが湧いてきたのだった。
あの男は榊の衣服を引き裂き、あちこち手をはわせていたに違いない。あの男の手指は榊の乳房にも
触れたであろうし、腕や足にも触れたであろう。それが許せなかった。
そしてそのとき気づいた。なぜここまであの男を憎むのか。それは榊だったから。榊だったから。自分
では観察と称していた行為の本当の理由も。
- 836 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 00:11 ID:z108pdqH
- それから数週間、俺は全く代わり映えのない今まで通りの生活を送っていた。
唯一の変化といったら俺が榊に対しての自らの気持ちを認識したという心境の変化くらいの
ものだった。ただ、気のせいか最近よく榊と目が合う気がする。うっかり目があっても、対応
に困るだけなのだが。
顔にけがをしたため学校を休んでいた二人も、1週間ほどして学校に来るようになったし、
春日も前のように笑うようになっていた。一度、屋上に井上といたとき4人が来てこの間のお礼を
言われたが、なかなかどうしてこの口は流暢な言葉を発せず、結局は井上任せになってしまった。
彼女らも、ずいぶん根暗なヤツだと感じたことだろう。
そんなこんなで過ぎていく日々だったが、相変わらず榊は俺にとって興味の的であった。
ある日の放課後、そろそろ秋の季節を感じさせる頃、部活から帰る途中だった俺は、以前榊が
その前でかがんでいたような段ボール箱を発見した。もしやと思ったが、中身はやはり捨て猫で、
ちっちゃいの5匹、身を寄せ合って震えていた。傍らにはなぜか牛乳パックが置いてあり、先ほど
までだれかそこにいたことは明白なのだが、さりとてもほおっておいてその人物が再び現れる事も
無いだろうと考え、取りあえず、家につれてゆくことにした。
段ボールを持ち上げさあ行くぞ、と立ち上がったときふと、うしろのほうで誰かの気配を感じた。
俺の姿を見てあわてて陰に隠れたようで、ははあ、さてはこの牛乳パックの主だなと考えたが、なにお
後ろめたいことがあろうかと、そのまま家の方に歩き始めた。
歩き始めると不思議なことに後の気配も歩きだし、一定の距離を置いてついてきだした。俺も
多少の不気味を感じたが、何のことはない猫が心配なのだろうと思い直し、気にしないことにした。
まったく、川にでも捨てるつもりだとでも思ったのか。
学校から俺の家までの距離は遠い。普通は自転車で通う道を徒歩で行くわけだから、この異様な
同行もかなりの時間続いた。後の人物が誰なのか気にはなったが、いきなり後を振り向いてこの猫
にご用がおありかと訪ねるのもはばかれ、こっそり顔が見られる機会を伺っていた。そしてある角
を曲がったとき、何気ない目の動きでその同行者の顔を見た。
榊だった。
- 837 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 00:40 ID:z108pdqH
- なぜ彼女が俺の後を、という疑問が当然俺の頭を駆けめぐったが、以前の雨の日の
彼女の姿が思い出され、また今この腕の中にいる子猫達のことを考えると、なるほど、
合点がいった。つまり彼女は俺ではなく猫達が心配でついてくるのだと。
長い長い道程(俺にとって)の終着である我が家に近づくにつれ、しかし俺は混乱
し始めた。この後どうするか、声をかけるべきか、あえて無視するか。これがもしも
他の男子ならばとっさの判断も出来るだろうが、何せこちらは17年女に興味を持っ
ていなかった男であり、こんな時どうすればいいかわからない。ついには我が家の前
まで来てしまい、鍵を取り出すに至って決心せざるを得なくなった。
うしろの方にいた彼女が踵を返して帰ろうとするのを感じ、おもわず振り返り、
「 榊 。」
と声をかけたのだ。
「え!ぁっ、う、。」
突然の呼びかけに驚いた彼女だったが、そのあわてる様子がおかしくて
「最初からばれてるって。」
などといらん事を言ってしまった。
「この子猫が心配なんだったら寄ってけよ。何もたいした物出せないけどさ。」
「いや・・・、でも。」
「遠慮するなよ、俺もこの後どう世話すればいいかよくわかんないしさ。」
「家族の人に迷惑だし、それにもう夜だし・・・。」
「なにもとって食いやしないよ。それに俺は一人暮らしだから。」
「・・・。」
無言のままでいる榊から、警戒されているのではとも考えたが、まず玄関前に突っ立っ
ていてもしようがないので中にはいることにした。すると意外なことに、榊も家の門
をくぐって、入ってきたのだった。
やはり、彼女は燐としている。
- 841 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 01:52 ID:z108pdqH
- 榊はずいぶんの猫好きらしく、家に入ってからずっと子猫たちを眺めている。しかしどうした
ことか一向に触ろうとしないのが不思議であった。ただ嫌いではないらしくただ、
「噛まれるから・・・」
と彼女は言う。はたしてこのくらいの子猫が人を噛んだりするだろうか?
ともあれ、子猫たちが与えてくれたこの思わぬ機会を利用しない法はないと、俺は榊に夕食を提
供すべく準備しつつ、段ボールの前で硬直している榊を横目で眺めていた。俺が想像していたのと
は多少違うが、榊はとても可愛らしい性格なのだと感じた。
榊と一緒に過ごした数時間は、今までと同じ家の中だとは思えないくらい俺の心を和やかにして
くれた。俺が将来の夢を話すと榊も言葉少なに、しかしはっきりとした意志で、獣医になりたいと
いう夢を語ってくれた。そしていままで何の接点もなかった日々の学校生活のことを、お互い話し
たりした。猫やかわいいのが好きなこと、でも猫には嫌われること、敵対してくる猫がいることなど、
その中では、いつも俺が思っていた榊とは違う榊の姿があって、まぶしいくらい新鮮だった。
その後、子猫の世話の仕方について一通りのアドバイスをしてもらったあと、榊は帰る事になった。
さすがに女子が夜遅くまで男子の家にいるのはまずかろうと思い、家まで彼女を送っていくことにし
たのだ。むろん彼女は遠慮から断ってきたのだが、
「君が俺の家を知ってるのに、俺が榊の家を知らないのは変だろう。」
という訳のわからない理由を言って、それを退けた。俺自身、相当動揺していたのだ。
- 842 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 01:53 ID:z108pdqH
- 驚いたことに彼女の家は先ほど同道したのと全く逆方向で、むしろ学校に近いくらいの所にあった。
驚嘆した俺はそんなに猫が心配だったのかと思い唖然とした。しかし、それを彼女に聞くと、うんとも
すんとも言わず、ただ顔を赤くしてうつむくのだった。
対応に困った俺は、打開策として出来うる限りの男らしさで勢い、こう宣言した。
「俺は明日の放課後に紀○國屋で子猫の世話用の本を買う。」
榊は一瞬驚いた様子だったが、すぐに合点がいったか、
「私も明日は紀伊○屋で猫の世話についてしらべる。」と答えた。
やがて彼女の家に着くと、ここでお別れかと思われ多少鬱になったが、
「今日は楽しかった。ありがとう。」
という彼女の言葉がうれしかった。
「それじゃ・・・。」
と彼女が踵を返したとき、とても強い衝動が俺の中で働き、俺は彼女の腕をつかんだ。
自分自身信じられない位、俺は彼女と離れたくなかった。
そして彼女を引き寄せると彼女の唇に自身の唇を重ね合わせた。
まさに勝手気ままとはこのことだが、俺は彼女から身を離すと、
「じゃ、明日、学校で。」
と勝手に挨拶して、家の方角へ向け体の進行方向を向け、多少早足で歩き出した。
歩きながらも「俺はこんな軽薄なことをする男だったのだ!?」と、我が行いに恥じ入いりながら。
まさに自業自得とはこのことで、この馬鹿な男は遙か後方で顔を真っ赤に染めた少女が、
「・・・・・・上村」
と俺の名前をつぶやいていたことになぞ、気がつくはずもなかった。
- 846 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 07:22 ID:PgPWAS2d
- 「おとうさん・・・。」
街のショーウインドウに飾られた得体の知れない人形を見て、突然彼女は言った。
「・・・おまえのお父さんなのか?」
「違う。」
「・・・ちよちゃんの・・・。」
「美浜の?」
「これはちよちゃんのお父さんだ。」
俺は一瞬返答に臆したが、さりとて何とも言えず、
「そうか・・・。」
というのがやっとなのだった・・・。
あの日以来、榊と俺は何となく付き合うようになっていた。まぁ付き合うとはいっ
てもお互い好きとも嫌いとも言わないので、恋人(?)関係ではないのであろう。つ
いこないだまでは女性に何の関心も示さず、母親の事でコンプレックスを持っていた
俺は、伝えたい重要な言葉がよく言えないのだった。
ただ、榊と放課後の行動を共にするようになって俺自身、彼女の事がよりいっそう
理解できるようになったと思う。そして彼女も、本当にたまにだが、笑顔見せてくれ
るようになっていた。5匹の子猫も今ではすっかり元気を取り戻し、俺の家の中でじ
ゃれ廻っている。その子猫たちを眺めている榊の表情は、以前の俺ならばあり得ない
ことだが、とてもいとおしく思えた。
ともあれ、俺が気恥ずかしさから来る自己嫌悪に悶絶しつつ、今の関係をより深く
押し進めようとさて行動をとろうかとしても、まてしばし、それはあまりに軽薄ぞ、
と羞恥心が引き留めるのが現在の状況だった。まったくもって、あの日の夜の我が行
いには驚嘆してしまう。
- 847 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 08:12 ID:PgPWAS2d
- そんなこんなで相変わらず単調だが、しかし単調ながら心を動かすような彩り
を持つようになった俺の毎日も、何時の間にやら3年の夏にさしかかっていた。
修学旅行を終え、何か変化をと考えるが、なかなかどうして思うようにいかない。
榊と二人だけの時、むろん衝動は走るのだが、いざ行動を起こそうとしても瞬間真っ
赤に染まってしまう彼女の顔を見ると俺もそれ以上動けなくなってしまうのだった。
逆に俺の周りで自由自在なのは井上で、この男、何時の間にやら滝野とつきあい始め
たようなのだった。修学旅行でも途中いなくなったが、何をしていた事やら・・・。
そんなある日、それまで俺の生活を支えてくれていた叔父が亡くなると、それまで
のいままで通りの生活が脅かされることになった。叔父の葬儀の日、13年の歳月を
経て、母が姿を現したのだった。
もうすでに50になろうかと思う母の髪は所々白く、ほほも痩けているように見えた。
自分の兄妹が死んだのを聞いて、駆けつけてきたのか、それとも叔父が死んだ後の俺を
案じて来たのか知らないが、いずれにせよ、13年前に親父を捨て外に男を作り家を出
て行った所業を考えれば、よく顔を出せたと思った。
しかし今までの十数年の間、母も苦労をしたようで、俺を見るその目には罪悪感から
来る沈痛さと同時に、涙があった。
母が語ることには、多分に自己弁護が含まれてはいたが、これまでの人生のなかで
この十数年が母にとっても苦しい物だったということが、伝わってきた。
許すことが出来たわけではないが、俺はひとまず母と和解ができた。以前の俺ならば
はねつけていたであろう母の謝罪も素直に受け入れ、これからの事を二人で話し合ったり
もした。榊の存在が俺の心を優しくしてくれたと強く感じたときだった。
だが、母が俺に話してくる今後の生活についての話は、俺自身をその愛しい少女から
遠ざけるような内容の物だった。
- 850 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 09:44 ID:PgPWAS2d
- ―――いつかのあの日のように降りしきる雨の中、俺は彼女の家の前に立っていた。
伝えたいことがある。あって話したい事がある。
もう、なりふりなどかまってはいられなかった。
13年ぶりの母との再会から一週間がたった。俺は親代わりだった叔父の葬儀や
火葬などのため、学校にはその間出ていなかった。当然彼女に会う機会もなく、また
彼女も叔父を亡くした俺に気を使ってか、一週間に一度はくるはずだった俺の家にも、
その姿を現さなかった。
叔父の葬儀の日、母が俺に提案したこと、それは共に暮らそうということだった。
母と共に逃げた男も今は姿を消し、母は一人だった。そして二人だけで、もう一度家族
をやり直そう、そう母は言うのだった。
俺自身の生活もまた、このままでは立ち行かなくなっていた。叔父が死んだことにより、
いままでの俺の生活を支えてくれた後ろ盾がいなくなり、もはや俺が一人で暮らすという
ことも出来なくなっていたのだ。
このままでは高校を辞めなければならない、そう考えていたときに突然現れた母は、
俺にとって助け船になるはずだった。しかし共に暮らすとなると話は違う。母は舞鶴
の方に店を持っているため、自由にならない身だからだ。そして母の提案を受ける事は、
すなわち彼女と離ればなれになることを意味していた。
今の俺にはそれが、どうしてもできない。
昨日の夜から降り始めた雨は、次第にその勢いを増し、打たれるような強い物となった。
明後日には舞鶴の方に行かなければならない。学校への転入届けも明日、母が出すだろう。
この間から頭に浮かぶのは彼女の顔。整った顔立ちのなかに強さと優しさを持った、その美
しい顔。離れたくない、そばにいて欲しい。
雲と雨とに遮られて見えなかった太陽が人知れず沈み始めたとき、何かに突き動かされる
かのように、土砂降りの中、俺は彼女のいる家へ、走り出した。
まるで、雨のなか傘もささず子猫を想っていた、彼女のように。
- 851 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 10:26 ID:PgPWAS2d
- 「・・・上村?」
「・・・。」
玄関を開けて俺を迎えたのは、驚きの表情をした彼女だった。
今さっき学校から帰ってきたばかりらしく、着ているのはまだ制服だった。
「どうしたんだ。・・・忌引きはもう、いいのか。」
びしょぬれのまま押し黙る俺の様子が怪訝なのか、当惑しつつ聞いてくる。
「ちょっと・・・お前に・・・会いたくなって・・・。」
「とにかく入って、そのままでは風邪をひいてしまう。」
そのまま彼女の部屋に案内されると、彼女は俺にバスタオルを差し出しつつ、
「これで体を拭いてくれ。・・・服は、乾かすから。」
と言った。雨に冷えて青白くなった俺の皮膚の色とは対照的に、彼女の頬は、
心なしか赤かった。
体に張り付いた衣服を悪戦苦闘して脱ぎ、向こうを向いている彼女にそれを渡すと、
俺は渡された毛布にくるまった。ふと足元を見ると、ベットの脇に見慣れない
姿をした猫がいた。
「・・・この猫は。」
「ああ、マヤーだ。今日はお母さんがいないから、ちよちゃんの所からつれてきたんだ。」
「お母さん・・・居ないのか、・・・変わった猫だな。」
「お父さんとお母さんは旅行だ。それにこの子はイリオモテヤマネコなんだ。」
俺の服を入れたバスケットを持って、彼女は階下に降りていった。
・・・イリオモテ?条約規定の保護動物ではないか。先ほどの榊の言葉の
意味を思い出し、俺は多少驚いた。人に知られれば困るだろうに・・・。
しかしベットの脇で丸まっているその姿は普通の猫と変わりなく、背中をなでると
クルル、とのどを鳴らした。これなら雑種に見えなくもないだろう。
そしてふと、気づいた。今の今まで忘れていたが、俺は榊の部家に入るのは初めて
だった。1週間以上焦がれていた彼女の暮らすこの空間には、彼女の匂いが満ちて
いるようで、渇いていた俺の心も満たしてくれるようだった。
階下にいるその匂いの主を想いつつ、俺は次第に暖まってきた。
- 852 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 11:02 ID:PgPWAS2d
- 俺の話を聞く彼女は、終始無言だった。あまり言葉巧みでない俺が話す、断片的な
言葉をただ黙って聞くだけだった。
叔父が死んだこと、13年ぶりに母と再会したこと、母が一緒に暮らそうと言って
くれていること、そして、そうなったらこの街を去らなければならないということを。
ひとしきり話し終えると、彼女は右脇にいるマヤーの背を撫でた。
「それで・・・、上村は、どうしたいんだ。」
「よく、わからない・・・。俺は、お袋のことなんて忘れていた。だけど、
いまは、たった一人の肉親なんだ。」
「・・・家族は、大切にしなきゃ・・・。」
「・・・。」
「だけど・・・、俺は、さか・・・・・・この街にいたいんだ。」
「・・・。」
「・・・。」
何も言わない彼女に、俺は次の言葉が出せずにいた。ふと雫が落ちる音を聞いて、
隣の彼女を見て、驚いた。
榊が泣いていた。下唇を強く噛んで。
「・・・わた・・しは・・、うえ・・・むら・・と、いっしょに・・・いたい。」
しぼるような榊のその言葉に、俺は、榊を抱きしめた。
抱きしめたその体はとても華奢で柔らかく、制服ごしに感じる彼女の豊かな胸の
鼓動は、とても早く、両目から溢れる涙の雫は彼女と同様に、温かかった。
- 853 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 12:12 ID:PgPWAS2d
- 「・・・ずっと、言えなかったんだ。お前に言いたい言葉が。」
「わたしも・・・ずっと、上村に言って欲しい言葉があった。・・・。」
「俺は、お前を・・・愛してる。」
「わた・・しも・・・。」
初めて恋だと知った時から、ずっと今まで発せなかったその言葉は、重く、厳かに
響いたように感じた。今彼女が噛みしめたばかりのその唇に己がそれを重ね合わせて。
俺はゆっくりと、彼女を覆っている衣服を一枚一枚、脱がせていった。それは俺と
彼女を阻む物を取り去ろうとするかのように。
脱がせかたが良くわからない下着を彼女自身が自らの手で外すと、一対の、美しい
蕾を頂いた乳房があった。その白い雪のような肌をした丘は、しかしその羞恥のため、
すぐさま彼女の腕の下に隠された。
「むこうを・・・むいててくれ。」
背を向けた俺のうしろからは、残された最後の物を脱ぐ、衣擦れの音が聞こえた。
「もう、いい・・・。」
了承の言葉をもらい振り返った俺が目にしたのは、真っ白な肌をした、覆う物とて
もはや無い、美しい、少女の裸体であった。少女の頬は羞恥心から仄かに桃色に染まり、
その瞳は、涙をたたえて潤んでいた。
そして俺も、自らを覆っていたバスタオルを、床に落とした。
- 854 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 12:13 ID:PgPWAS2d
- 榊をベットの方に促すと、俺は彼女の肩に自分の両手を置き、ゆっくりと、
彼女をそこに寝そべらせた。
すべてを取り去った彼女の肢体は、本当に美しかった。
今はもはや露わになったその乳房も、彼女の首から足までの曲線も、そして
いまは両足の隙間から茂みが見えるだけで、だがしかしそこにあるであろう
その泉も。
俺は静かに彼女と口づけをかわすと、その深度を少しずつ深めていった。榊は
恥じらいの涙を流しつつも、俺をその口中に迎えるのを許していた。そのときに
ふと、彼女の唇が甘い様な気がした。この少女の唇は、自然に甘いのだろうか。
己の唇を少女の唇から、次第に首筋に移すにしたがい、彼女の双腕は俺の首筋に
ゆっくりと巻かれるようになった。俺はその彼女の左腕を取り、徐々に彼女の左の
蕾にその進路を移していった。
彼女の息は俺の所作にしたがいその速度を速め、ときおり漏らす艶っぽいあえぎ
がそれに色彩をくわえた。
今まさにその蕾を口中に含まんとしたとき、彼女の自由な右手は俺の髪を後から
掻き上げた。
「ああ・・・。」
ひときわ大きいそのあえぎは、少女の歓呼のあえぎのようにも聞こえ、俺は彼女に
対する愛撫をいっそう強くしていった。
- 855 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 13:14 ID:PgPWAS2d
- 未だ女をしらないこの俺は、とにもかくにもただ無我夢中であった。榊を傷つけないように、
苦痛を与えないようにとする意識とは裏腹に、己の無骨な掌は、彼女の乳房をまさぐり、肌を
なぞるのだった。そして彼女もまた、精一杯に俺を受け入れようと、俺の与える愛撫に反応
の度合いを深めていくのだった。
不意に俺は彼女から体を離し、体の体勢を変えた。榊もその意味がわかっているらしく、
霞がかかってきた瞳に羞恥をうかべ、ゆっくりと、その戒めを開いていった。
彼女の秘部は、既にこんこんと溢れる雫によって濡れそぼっており、いまから俺を向かい入
れようする榊自身を連想させた。もはやなりふり構わず奪いたくなるほど、その姿は俺の胸を
掻き立て、貪欲とも言える愛情を強く奮わせた。
暴発しそうな想いをなんとか抑えつつ、俺は俺自身を榊自身にあてがった。ゆっくりゆっくり、
俺は榊の中に入ろうとしたが、しかしなかなかうまくいかず、まるで彼女の最後の羞恥心がそう
させるかのように、彼女の秘部は俺の侵入を容易にさせない。
半ば焦る俺に彼女は、
「わたしも・・・手伝うから・・・。」
そう言って、自分でその抵抗を解くべく、俺の行為に協力してくれた。
ようやく入り始めた彼女の内はとても狭くきつかったが、それが俺にとっては快感であった。
しだいに侵入する深さを進め、もう少しで完全に入るという所で俺は彼女の少女たる証にたどり
着いた。
ここを超えれば彼女の中の何かが変わる。女性の体に対しての知識が不足している俺でも、
感覚としてそれがわかった。
そして榊に対する俺の思いが、その一線を越えさせた。
- 856 名前: ばるばろ 投稿日: 02/09/22 13:52 ID:PgPWAS2d
- 「うぁ、あぁ・・うう、・・・ああ!」
痛みにゆがむ榊の顔に強い罪悪感を抱きつつ、俺はそれでもやめなかった。
必死に俺の背中を抱きしめることでその痛みに耐える姿が、愛おしくて、俺はゆっくりと
動き出した。
「うう・・・あぁ・・・いっ・・・あうう・・。」
悲痛とも言えるような榊のあえぎは、時折俺の背中に傷を付けることで俺自身にも
感じられる物であったが、少しでも痛みを和らげれればと与える口づけや愛撫によって、
徐々にその性質を変えつつあった。
榊も少しずつ反応し始め、痛みと同時にそれとは別な反応を示すようになっていった。
彼女の長い黒髪を手に絡めつつ、俺は榊と一つになれたことがうれしかった。
「榊・・・愛してる・・・。」
俺の言葉に再び涙を浮かべる榊を見つつ、俺は自分の限界が近いことを悟った。より
速度を増す俺の腰使いに、榊はそのあえぎを早め、ついには俺の背中に回した双腕で、
ひときわ強く抱きしめた。
その瞬間彼女の内部は劇的にその収縮を強め、俺自身の限界を促すかのようにきつくし
まった。
そしてまた彼女の変化に俺も限界を迎え、俺は彼女の中で、果てた。
荒い息を整えながら二人はそのまま口づけをかわし、お互いのつながりの余韻を味わっ
ていた。彼女の中で果てたことには、後悔はなかった。ずっと守りたいから。ずっと一緒
にいたいから。
「大好きだ・・・心から、榊。」
「なまえで・・・よんで・・・。」
自分の主人が心配なのか、ずっと眺めていたはずのマヤーも今は体を丸めて眠っている。
そして俺はもう一度ささやいた。心から愛しい、彼女の名で。
- 858 名前: ばるばろ 最終話その1 投稿日: 02/09/22 14:54 ID:PgPWAS2d
- 榊と結ばれ、お互いの気持ちを確かめ合った俺は、舞鶴には行かないことに決めた。
残り数ヶ月の高校生活を終えるため、母には相当の援助を求めなければならないし、足
りない分は奨学金で賄うことになる。だが、母は何事か理解してくれたようで、俺の意
思を尊重してくれた。
榊との一夜は、しかしその証拠隠滅にずいぶん苦労させられ、もう使い物にならなさそうな
シーツを新しい物に買い換えたりした。その問題の榊も、結局は俺の子どもを宿すことな
く、二人ともほっとした反面、残念でもあった。やはり、結婚するまではお預けのようだ。
榊はかねてからの獣医の夢を叶えるために大学に入り、俺は11月に行われた防衛大学校
の試験に合格した。いまは以前からの夢でもあった、自衛官の道を歩もうとしている。
当分は彼女と離れて暮らすことになりそうだが、大事な人を守れる存在になれれば幸いだ。
今になって改めて考えるのは、人と人との巡り合わせの不思議さだ。
いままで人に対して心からの信頼を持てずにいたこの俺が、一人の少女と出会うことで
自分に素直になれるようになった。
もし、あの雨の日の出会いがなければ、今の俺はなかったといえるだろう。
俺にとって、最も大切なこの女性を守って生きていきたい。
- 859 名前: ばるばろ 最終話その2 投稿日: 02/09/22 14:56 ID:PgPWAS2d
- 何時の頃からか感じ始めた私への視線。
今はそれが私自身を包みこんでくれている。
夏の夜から抱いた気持ちは、自分に自信が無い私にはとても伝えられる
物ではなく、こんな背の高い女を好きになるわけがないと、自分を退け、
いつもの6人、いつもの仲間、いつもの生活を演じようとしていた。
子猫を抱いたあの人を、隠れて追ったあの日から自分の気持ちに向き合
えるようになった。
今は別々に暮らすことになるけれど、あの夜の契りを想えば信じられる。
あの人が飼っていた子猫達は私が引き取ることにした。きっとマヤーと仲良く
なれるだろう。
土砂降りの雨の中、私に会いに来てくれたあの人を待って、今は私らしく生きよう。
そしていつか一緒になりたい。
大好きな、あの人と。
―――――― Fin ―――――――